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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)3220号 判決

本店所在地

大阪市西区立売堀一丁目一一番八号

日本空気力輸送装置株式会社

右代表者代表取締役 小泉恭男

本籍

大津市鳥居川町五九番地

住居

兵庫県西宮市甲子園五番町二番二三号

会社役員

小泉恭男

大正一五年一月二三日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宇田川力雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人日本空気力輸送装置株式会社を罰金二八〇〇万円に、被告人小泉恭男を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人小泉恭男に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人日本空気力輸送装置株式会社(以下「被告人会社」という。)は、大阪市西区立売堀一丁目一一番八号(昭和五三年一〇月二日住居表示実施による変更前は大阪市西区阿波座南通二丁目二五番地)に本店を置き、空気機械装置の設計製作施行等を目的とする会社であり、被告人小泉恭男は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人小泉恭男は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人会社の当時の総務部長柏原昭治と共謀のうえ、売上の一部を除外し、あるいは既に引渡しずみの完成工事を未成工事に仮装するなどの方法によって売上を翌期以降に繰り延べるなどの行為により、所得の一部を秘匿したうえ、

第一  被告人会社の昭和四九年五月二一日から同五〇年五月二〇日までの事業年度における所得金額が三億二三一二万二七八六円(別表(一)修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、同五〇年七月二一日、大阪市西区川口二丁目七番九号所在西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が八八八万七八九八円で、これに対する法人税額が一五五万〇五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度における正規の法人税額一億二七二三万四六〇〇円(別表(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一億二五六八万四一〇〇円を免れ

第二  被告人会社の昭和五〇年五月二一日から同五一年五月二〇日までの事業年度における所得金額が三四五八万三〇五七円(別表(二)修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、同五一年七月二〇日、前記西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一〇八四万三七三二円で、これに対する法人税額が一七七万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度における正規の法人税額一一二六万五二〇〇円(別表(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額九四八万八八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人小泉恭男の検察官に対する供述調書二通

一  被告人小泉恭男の大蔵事務官に対する昭和五二年一一月一八日付、同月二四日付、同年一二月一三日付、同五三年二月八日付、同月一〇日付、同年四月一四日付各質問てん末書

一  第三回、第四回、第五回、第六回、第七回公判調書中の証人柏原昭治の各供述部分

一  証人高橋紀行、同川崎祐弘、同神崎公生、同川本嘉則、同小川弘、同坂中博志、同池田英道、同多久島明、同楠本純一に対する当裁判所の各尋問調書

一  第一一回公判調書中の証人山内清蔵、同吉田日出昭の各供述部分

一  第一二回公判調書中の証人安達正一、同臼井猛の各供述部分

一  第一三回公判調書中の証人大竹輝夫の供述部分

一  第一四回公判調書中の証人西川正昭の供述部分

一  第一五回公判調書中の証人岡島一郎の供述部分

一  第四三回、第四四回公判調書中の証人港栄太郎の各供述部分

一  柏原昭治の検察官に対する供述調書

一  神崎公生の検察官に対する供述調書

一  山内清蔵の検察官に対する供述調書

一  佐藤宏、川本嘉則、小川弘、坂中博志の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  川本嘉則作成の供述書

一  柏原昭治(昭和五三年二月一三日付、同年五月一日付)、畠山秀和、加納敬一、志村政美(三通)、小川弘(三通)、寺田秀雄作成の各確認書

一  大高嘉男、中村喜一、株式会社神戸製鋼所、上杉忠利、馬場良和、吉田博、土井忠雄、石川文雄、松田道昭、楠本純一、坂井清人、亀川清、株式会社千代田組池田、千葉正彦、臼井猛、角元聖二、若松八郎(二通)、宮西芳実、渡辺博、多久島明、奥慎吉、西原雄一郎、西川彰、高橋俊雄、大竹輝夫、石井菊次郎、吉田日出昭、旭化成工業株式会社作成の照会に対する各回答書

一  検察官作成の昭和五九年五月二一日付及び同年四月二三日付各報告書

一  大蔵事務官作成の昭和五三年七月一日付証明書

一  登記官作成の昭和六〇年八月三〇日付登記簿謄本

一  被告人小泉恭男作成の被告人会社の定款

一  押収してある工事台帳一綴(昭和五四年押第一九七号の一)、52/5期工事台帳一綴(同号の二)、51/5期工事台帳一綴(同号の三)、50/5期工事台帳一綴(同号の四)、49/5期工事台帳一綴(同号の五)、48/5期工事台帳一綴(同号の六)、受注帳五綴(同号の七)、49・6~50・5工事関係請求書三綴(同号の八)、50・6~51・5工事請求書綴二綴(同号の九)、51・6~52・5工事請求書綴二綴(同号の一〇)、自五二・六工事請求書綴一綴(同号の一一)、納品請求書〈控〉綴八綴(同号の一二)、納品請求書〈控〉二冊(同号の一三)、中央工機産業宛書簡一枚(同号の一四)、納品請求書控二枚(同号の一五)、領収証及び支払証明書五枚(同号の一六)、売上伝票一綴(同号の一七)、仕入伝票一綴(同号の一八)、ファイル付工事別受注金額明細一綴(同号の一九)、解約済普通預金通帳三冊(同号の二〇ないし二二)、注文書一綴(同号の二三)、得意先別仕様書ファイル(五〇綴)一箱(同号の二四)、取引関係書類綴一〇綴(同号の二五)、物資部取引関係書類二綴(同号の二六)、仕入先元帳一綴(同号の二七)、得意先元帳一綴(同号の二八)、仕入先別支払手形台帳一綴(同号の二九)、支払関係書類綴一綴(同号の三〇)、売買約定書綴一綴(同号の三一)、旭化成注文書一綴(同号の三二)、48/5~51/8支払通知書一綴(同号の三三)、52/5元帳一綴(同号の三四)、51/5元帳一綴(同号の三五)、50/5元帳一綴(同号の三六)、注文書及び注文請書一綴(同号の三七)、注文書綴一綴(同号の三八)、得意先別仕様書ファイル(三五綴)一箱(同号の三九)、得意先別仕様書ファイル(三〇綴)一箱(同号の四〇)、得意先別仕様書ファイル(五〇綴)一箱(同号の四一)、得意先別仕様書ファイル(四一綴)一箱(同号の四二)、得意先別仕様書ファイル(四二綴)一箱(同号の四三)、得意先別仕様書ファイル(四二綴)一箱(同号の四四)、CPEプラント関係書類(一一綴)一箱(同号の四五)、CPEプラント関係書類(一〇綴)一箱(同号の四六)、50・2・4と記載ある計算メモ一枚(同号の四七)、註文書一枚(同号の四八)、註文書及び納品書一綴(同号の四九)、注文内訳書五枚(同号の五〇)、納品書四枚(同号の五一)、請求書領収書一綴(同号の五二)、仕様書一綴(同号の五三)、貸方伝票及び借方伝票一綴(同号の五四)、検収証明書写一綴(同号の五五)、注文要領書兼物品要求書一綴(同号の五六)、指定納品書及び注文書写一綴(同号の五七)、検収通知書(控)一綴(同号の五八)、50・7・28御見積書一綴(同号の五九)、50・11・25納品書一枚(同号の六〇)、50・11・25請求書一枚(同号の六一)、51・4・1付領収証一枚(同号の六二)、51/5~52/5出張旅費精算書一綴(昭和五四年押第一一〇一号の三)、50/5~51/5出張旅費精算書一綴(同号の四)、49/5~50/5出張旅費精算書一綴(同号の五)、仮払精算(出張旅費精算書)一綴(同号の六)、昭48・5・21~49・5・20工事請求書二綴(同号の七)

判示第一の事実につき

一  柏原昭治(昭和五二年一一月一八日付)、中村功作成の各供述書

一  高橋紀行、山根要二、芳川和男(二通)、小野力功、小野和彦、皆川孝一、泉谷尚信作成の各確認書

一  日比野昭、岡田彬作成の照会に対する各回答書

一  大蔵事務官作成の「被告人会社昭和五〇年七月二一日法人税申告書の証明書」と題する書面

判示第二の事実につき

一  井上良輔、坂中博志の検察官に対する各供述調書

一  松山良文、松野正光の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  池藤義宣、永井邦昌作成の各供述書

一  柏原昭治(昭和五三年五月二日付)、永井邦昌、松山良文、山崎稔、木村茂作成の各確認書

一  重藤哲郎、杉原延幸、高田清史(二通)、大野久夫作成の照会に対する各回答書

一  大蔵事務官作成の「被告人会社昭和五一年七月二〇日法人税申告書の証明書」と題する書面

(争点に対する判断)

弁護人は、多数の工事につき、売上繰延べの事実を争い、かつ、一部売上除外の事実を否認するので、以下に検討判断を加える。

なお、記載を簡略化するため、年月日の昭和及び会社名の株式会社等は省略し、証拠については、公判調書中の証人の供述部分及び証人に対する尋問調書はすべて証人の証言とし、被告人小泉恭男のそれも被告人小泉の公判供述とし、検察官に対する供述調書は検面調書、大蔵事務官に対する質問てん末書は質問てん末書とし、書証については、検察官弁護人請求番号を検、弁の記号の下に数字で表示し、押収してある証拠物は、昭和五四年押第一九七号の一は(押1)、同押第一一〇一号の一は(押二1)のように記述する。

一  売上計上の時期

弁護人は、後記二の工事番号分につき、被告人会社の売上計上時期に誤りはないと主張し、その前提として、被告人会社の取引を三種類に分類し、それぞれの売上計上時期の基準に合理性がある旨次のとおり主張する。

被告人会社は、輸送管内に空気又はガスの流れを作って、粉粒体を輸送する空気力輸送装置を製作している会社であり、被告人会社が行っている取引は次の三つ、すなわち、〈1〉多数の機械、器具からなる大規模な装置全体の取引(装置の取引)、〈2〉ブロアー、ロータリーバルブ等装置を構成する個々の機器の取引(機器の取引)、〈3〉エアシリンダー、炉布、ベアリング等、従前納入した機器の取替部品、修理部品、予備品等の取引(単品の取引)である。そして、被告人会社は、その売上計上時期として、〈1〉の装置の取引及び〈2〉の機器の取引につき、いずれも装置、機器の試運転が完了し、相手方が検収したときに売上に計上する、〈3〉の単品の取引につき、引渡時に売上に計上する方法を長年とってきた。〈1〉及び〈2〉の取引は、いずれも注文者の注文に従い、輸送の目的物 輸送条件等に応じ個別的に製作するものであるが、その装置の特殊性のため、〈1〉の装置は注文者が指定する場所に組立据付けをなし試運転調整をした上引き渡す必要があり、〈2〉の機器も製作して後、機器自体独立したものではなく、既設の装置に接続させ装置全体を見て調整する必要があるから、組立据付け後、試運転調整をして引き渡す必要がある。注文者側が、被告人会社製作の装置、機器を組み立て据え付ける際も、被告人会社は装置、機器が予定された性能を発揮することまで請け負っており、試運転により調整する必要があり、注文者が右試運転により正常な作動を確認したとき、受領したことになる。したがって、右〈1〉及び〈2〉の取引に際し、試運転完了後、相手方が使用できることを確認した上、売上を計上する被告人会社の計上基準には合理性がある旨主張する。

1  弁護人主張の〈1〉、〈2〉の各取引は、いずれも請負契約であり、相手方に対し物の引渡しを要するものであるから、その売上収益は、請負契約の内容を充足する目的物を完成して引き渡した日の属する事業年度の収益となる。そして、右引渡時期は、その請負契約の内容、性質等に応じ、引渡しの日として会計学上合理的であると認められる日であって、かつ、当該法人が継続してその収益計上を行うこととしている日に従うのが相当である。

2  被告人会社の前記〈1〉、〈2〉、〈3〉の各類型の契約における売上計上基準につき検討する。

弁護人は、製作する物を、〈1〉の装置、〈2〉の機器、〈3〉の単品に区別し、〈1〉の装置及び〈2〉の機器については相手方のなす試運転検収を、〈3〉の単品については被告人会社のなす引渡しをもって売上計上すべきものとしているところ、〈1〉の装置及び〈2〉の機器について、相手方工場で組立据付けをするいわゆる据付渡しと、相手方の指定する場所に単に納入し組立据付けを伴わないいわゆる納入渡しの区分けをしていない。しかし、被告人会社が右装置等の組立据付けをする債務を負担するか否かは、被告人会社と相手方との契約上重要な意味を有し、かつ、相手方のなす検収内容も著しく相違するので、右据付渡しと納入渡しの差異を軽視することは許されない。けだし、被告人会社のなすべき債務は、据付渡しの場合には被告人会社が装置、機器の機材や部品を据付場所に持ち込み、これを組立据付けした上、無負荷運転や負荷運転をして当初予定された性能を発揮するよう調整することまで及ぶのに対し、納入渡しの場合には被告人会社は装置や機器を構成する機材、部品あるいは機器を指定場所に持ち込み、相手方において右持ち込まれた機材を組み立て、これを据え付けあるいは持ち込まれた機器を既設の装置と接続し試運転をすることが予定されているものであり、被告人会社がなすべき作業は原則的には納入作業までである。もとより、納入渡しの場合、別途の契約により、被告人会社が相手方のなす組立据付けや試運転を技術指導する旨の契約を結ぶことは可能である。また、検収方法についても、据付渡しの場合、相手方は被告人会社が据え付けた装置等の試運転を行い予定された性能を発揮することを確認して検収を終えたとするのに対し、納入渡しの場合、相手方は被告人会社が組立据付けをなすことを予定していないから、指定場所に納入された装置や機器あるいはこれらの機材が仕様書等に従い製作されているかどうかを確認して検収するのが通例である。

以上の次第で、弁護人主張の〈1〉、〈2〉、〈3〉の取引の分類は更に〈1〉の装置の据付渡し、〈1〉の装置の機材の納入渡し、〈2〉の機器の据付渡し、〈2〉の機器の機材の納入渡し、〈3〉の単品の引渡しと区分けすべきである。しかし、売上計上基準を検討する上では、装置と機器を格別区分けする実益に乏しいから、(一)装置機器の据付渡し、(二)装置の機材、機器、機器の機材の納入渡し、(三)単品の引渡しに分類して検討する。

(一) 装置、機器の据付渡し

〈1〉の装置の取引及び〈2〉の機器の取引につき、被告人会社が、右装置ないし機器を製作して注文者側指定の場所に組立据付けすることを請け負っている場合、据付け後、試運転(無負荷運転あるいは負荷運転)をして注文者の検収を経て引き渡す旨の約定があるときは、試運転を行い相手方の検収をした日が売上計上時期である。また、試運転の約定がなされていないときは、相手方が据え付けられた装置等を受領してこれを検収したときに売上を計上すべきであるが、右の約定がなくても、被告人会社において、組立据付け後、当然のこととして試運転を行っているときは、右試運転を行って契約上予定された機能が発揮されることを確認した日を売上計上の時期とする方法には合理性があるから、右の売上計上基準に従うのが相当である。

ところで、被告人会社代表者は、据付け試運転後、約一か月位経過をみた上、装置や機器に異常のないことを確認して、売上計上する方法を続けてきた旨供述(二六回四丁)し、証人柏原も同旨の証言(三回一〇、一一丁、五回二二丁ないし三二丁等)をする。しかし、被告人会社において組立据付けして試運転調整等をし、相手方において仕様書どおり性能が発揮されたことを確認して引渡しを受ければ相手方の検収は終了したものというべきであり、被告人会社としては、その後は性能保証に関連する問題等が残されるにとどまるから、右検収時に売上計上すべきものというべきである。そしてまた、被告人会社の右約一か月後の確認についても、本件証拠上、いつの時点でどのように確認したかを的確に示す資料は見当たらないことなどを併せ考えれば、被告人会社が採用してきたという売上計上方法についての前記の供述は措信できない。

(二) 装置の機材、機器、機器の機材の納入渡し

(1) まず、装置の機材、機器ないし機器の機材を相手方指定の場所で引き渡す約定のみの場合、すなわち、被告人会社において右引渡し後に格別の作業を要しない場合には、その売上計上時期は、原則として相手方が右機材等の引渡しを受けてこれを検収したとき、あるいはあらかじめ被告人会社の工場等で検査をしたときには、右機材等の引渡しを受けたときと考えられ、相手方の行う右機材等の組立据付け後の試運転時まで売上計上を延引すべきものではない。けだし、被告人会社は、右機材等の組立据付け及び試運転調整を請け負っていないのであるから、相手方がなすこれらの作業を確認して売上を計上する理由はない。また、相手方は、自ら適切な時期に組立据付けをすることができ、ときにはその都合で組立据付けを中止することさえありうるところ、相手方の試運転時に売上を計上するとすれば、その売上時期は不安定となる上、被告人会社は、相手方が実施する組立据付け及びその後の試運転の時期を的確に知ることは困難である。したがって、前説示のとおり、相手方に機材等を引き渡して検収を受けたとき、売上に計上すべきである。なお、被告人会社が、組み立て据え付けられた装置や機器の性能を保証しているとしても、右の売上計上時期に異動を生じるものではない。

次に、右機材等の納入契約に際し、被告人会社と相手方との間で、被告人会社において、右納入後に相手方がなす機材等の組立据付けや試運転につき、継続的に指導監督することをも請け負う旨を約定し、現実にも被告人会社において、相手方に自社従業員を継続的に派遣するなどしてその指導監督をし、かつ、機材等の製造納入費と右指導監督費の対価区分を決めず一括して対価を定め(右にいう継続的な指導監督の場合には、対価の面でも請負代金の相当部分を占めることになろう。)、機材等の納入及び組立据付けや試運転の指導終了時に、その売上を一括計上するという取扱いを続けているときは、右試運転終了時に売上を計上する方法に合理性がないとはいえない。

他方、右機材等の納入契約の際、右組立指導等をなすことを約定していないときは、相手方に対し、組立据付方法や試運転方法を教示したり、相手方の組立据付けや試運転に便宜立ち会い、組立据付け等の不良箇所の発見に努め、修理箇所の補修工事をするなどしたとしても、右は機材等の製造納入契約に伴う単なる附帯サービスないしは性能保証の一態様としてなされるものであるから、このような場合、売上を計上すべき時期は、相手方が行う機材等の検収時であると解される。なお、被告人会社は、建設業者の登録(弁11)をしているところ、被告人会社が機械装置の据付工事に係る部分の収益について合理的に区分して経理すれば、請負製作した目的物に欠陥があり、相手方に引渡し後、被告人会社の負担により無償で補修することになったとしても、その補修費用については、補修の費用に充てるため、各事業年度において損金経理により製品保証等引当金勘定に繰り入れる措置をとる場合、最近における補修の実績に応じて相当額を損金の額に算入する(法人税法五六条の二参照)こともできるから、右のように売上計上基準を解したとしても、収益費用の対応上、不合理な点はない。

(2) そこで、被告人会社の納入渡しの場合、継続的技術指導契約条項の存否あるいは継続的技術指導と同視できる約定の存否につき検討する。

本件全証拠によるも、被告人会社が相手方のなす組立据付け及び試運転を当該工事現場で継続的に指導する旨の約定をした事実は、これを認めることができない。すなわち、被告人会社は、後記二3(一〇)で判断する七四〇五番中央工機分を除き(但し、その実態については後に判断する。)、明示ないし黙示に、右継続的な技術指導を、納入渡契約とは別個にあるいは納入渡契約と一体のものとして、約定している事例は認められない。この点につき、被告人小泉は、機材等納入渡しの約定の場合も、試運転調整指導までの役務を請け負う契約をした趣旨の供述をしている。なるほど、三菱化成工業の被告人会社宛見積依頼書(弁59)には、見積範囲の項に、「ロータリーバルブ等の設計、製作、テスト塗装の上、黒崎工場納入(車乗渡し)までとし、当方の据付配管工事終了後、エアシリンダー付バルブの調整員を派遣すること。又、実物試運転時には立会い、円滑に所定量を搬送できることを保証すること。」の記載がある。しかし、右見積書記載の約定で契約が締結された際、被告人会社は相手方に対し、バルブ調整員を派遣すること及び実物試運転時の立会いと所定量の搬送の性能保証を要求されているが、継続的な組立据付けの指導までは要求されていない。しかも右要請された二つの役務は、ロータリーバルブ等の黒崎工場納入渡しまでの見積に附加されたものであり、本来の見積範囲外のものであることは右書面の記載上明らかである。そして、被告人会社は、相手方が組立据付けした後の装置や機器の性能保証を要求されているところ、右注文者の二つの要請事項は、右仕様書の記載内容からして、日常よく問題となる事柄で、性能保証をしている被告人会社に要請したい事項を具体的に記載したものと解される。つまり、被告人会社のバルブ調整員の派遣、試運転立会いは、それ自体相手方のなす組立据付け及び試運転を側面から援助するものであるとしても、相手方に対する継続的技術指導とは到底評価することはできない。

次に、前記継続的技術指導条項と同視できる約定についても、本件全証拠によるも、これを認めることができない。相手方組立据付け後の被告人会社の試運転調整立会いの約定は、前説示のとおり被告人会社の性能保証の一つの形態として理解すべきものであって、これをもって継続的技術指導とは解されない。被告人小泉は、契約内容となっている試運転立会いについて、被告人会社が設計製造する空気力輸送装置の特殊性及び相手方据付け後の被告人会社の試運転調整作業の重要性を強調し、現に種々の作業をしていることなどを理由に、試運転立会調整指導も契約内容の重要な部分であり、これが終了したときに売上に計上すべきである旨供述している。しかし、被告人会社は、相手方の機材等の組立据付け及び試運転全般の監督指導をなす旨の約定はしておらず、右の試運転調整費用も、請負契約金額の相当部分を占めているものではない。また、試運転調整自体、注文者側の要請がある場合に行われるもので、注文者側の判断で試運転立会いを要請しないことあるいは据付けそのものの中止もありうるわけである。現に、後記二3(一三)七四六二番第一実業のHFM用ニューマ機器につき、注文者の旭化成工業は、五一年三月に被告人会社が納入した機材等の検収後、同社の都合で組立据付けを中止し、右機材等を他に転用できるものは転用し、転用できないものについては、五二年六月三〇日被告人会社に買取方を依頼している。証人鳥越征二(二四回三七、三八、四二、四三丁)、証人榊原富士彦(二五回四、五丁)は、試運転指導をしないこともあり、その際は電話で試運転を確認したり、納入工場ではなく相手方本社で試運転を確認することもある旨証言する。また、証人港(二一回一五丁)は、相手方据付けでトラブルが発生した際、設計上の欠陥か相手方組立据付けの誤りかを話し合う旨証言する。しかし、前記の諸事情並びに後記各工事について示す判断のとおり、試運転を確認した旨の被告人会社従業員の証言が必ずしも措信できないことをも考慮すれば、試運転調整指導も主たる契約内容を構成するとか、これが終了後に売上に計上すべきであるとの供述は到底採用することができない。なお、第一実業に勤務していた証人佐藤宏は、同人在職中、被告人会社との取引にあっては、発注者組立据付けの場合でも、被告人会社が試運転に立ち会うことが契約内容となっており、試運転立会終了により契約内容の履行が完了し、そのとき売上に計上すべきである旨証言(二三回)する。ところで、第一実業との取引に際し、被告人会社が試運転に立ち会うことを契約内容に含ましめること自体何ら異とすることではないし、右売上計上時期についての証言部分は、それ自体法的判断を述べたに過ぎず、同証人自身第一実業では、被告人会社が機材等を納入し発注者がこれを検収した際に仕入及び売上を計上している旨述べており、被告人会社の売上計上基準と明らかに異る取扱いをしていることに照らし、右証言部分は前記認定判断を妨げるものではない。

(3) なお、被告人会社の納入渡しの約定について、被告人小泉は、機器や機材等を指定場所に納入する約定は相手方へ機材等を納入するまでの輸送上の危険負担や運賃区分を定めた約定であり、納入後に相手方のなす検収も、代金支払手続上の一つの事務手続に過ぎない旨供述するが、右約定は、そのような特殊な取扱いを前提にした契約とは認められない。すなわち、相手方と納入渡しの約定をした場合、被告人会社は、組立据付けをなすべき契約上の債務を負担せず、また、相手方のなす組立据付けを継続的に指導する義務もなく、現に被告人会社においては右のような事項を契約上の債務として履行してきたことはないのであるから、右の約定を単に危険負担や運賃区分を定めたものということはできない。また、相手方の検収は、納入された機材等を相手方の検査方法に従って性能品質等を検査し、合格したものを受領することであり、右検収手続を終えた後、契約条件に従い代金の支払手続がなされるのが通常であって、本件における各取引先も右のような意味合いにおいて検収をしているものと認められる。ところで、相手方において、右物品検収後、これを組み立て据え付けて試運転をする経過の中で不良個所を発見した際、被告人会社にその補修工事等を求めることがあるが、これは被告人会社と相手方間の性能保証契約あるいは瑕疵担保責任等に基づいて請求するものであり、相手方の検収が終了したことにより、被告人会社の責務の全てが終ったことにはならないことはもとよりである。納入渡しの約定、納入後の検収は右のように解されるもので、被告人小泉の前記供述部分は、採用しえない。

(三) 単品の引渡し

被告人会社は、単品については相手方にこれを引き渡したときに売上計上する方法を採用した旨述べるが、その方法自体は正当である。しかし、被告人会社は相手方との取引に際し、相手方検収後に代金の支払を受ける旨の約定(例えば、七五一五番、昭和電工、高田清史作成の回答書(検79)等)の取引を多数している上、従前、引渡しの際に売上を計上する方法を継続して採用してきたものとも認められない。したがって、右の検収後に代金を支払う旨の約定がなされている場合には、相手方検収時に売上を計上する方法が相当である。

二  争いとなっている工番の検収日

1  弁護人が売上計上時期を争う工番について、その売上計上時期を順次検討するが、売上計上基準は、さきに説示したとおりである。したがって、(一)被告人会社が装置や機器を据え付けて引き渡す約定の場合には、相手方指定場所に組立据付けをして試運転をなし、相手方の検収を受けたときに売上を計上する、(二)被告人会社が装置の機材、機器、機器の機材を相手方指定場所に納入して引き渡す約定の場合には、組立据付けや試運転の技術指導を約していないことが明らかなときはその判断を省略し、右約定の有無が問題になっているときにのみ個別に判断を示すこととする。しかして、相手方の実施する試運転に被告人会社従業員らが立ち会うことが明示ないし黙示に約定されているとしても、前説示の次第で売上計上時期に異同が生じないから、この点の認定判断を省略し、相手方が納入された機材等を検査してこれを受領したときに検収を終えたとして売上に計上する、(三)単品の取引については、検収後払の約定がある場合には相手方の検収時、右約定がないときは引渡時に売上計上することとする。なお、右(二)の場合、相手方が機材等の引渡しを受けた後直ちに検収をせず、後日に至ってその検収をした場合、被告人会社は当該検収日時を正確に知りえず売上計上方法に支障が生ずる可能性がありうるけれども、相手方において遅滞なく検収することが要請されている上、被告人会社も相手方への代金請求の関係上検収の有無とその日時を問い合わすことは容易になし得ることであり、被告人会社自身、相手方の検収時に売上を計上する方法を採用しているから、右の認定方法をもって、被告人会社に格別不利益な方法とはいえない。

2  更に、相手方の検収につき付言するに、被告人会社が注文者から直接請け負ったときは、右注文者の検収が相手方の検収である。注文者が商社等に発注し、商社から被告人会社がこれを請け負ったときは、被告人会社の契約相手は商社等であるが、実際にこれを必要としている注文者が専ら利害関係を有してこれを検収し、他方、商社等において自ら常態として検収していないと認められるときは、注文者の検収をもって相手方の検収というべきである。したがって、注文者が納入された機材等を検収する前に、商社において、右納入を確認して注文者に対する売掛と被告人会社に対する仕入を計上して支払手続をなし、仮勘定や前払金勘定の処理をしないこともありうるが、右は商社としての支払手続上なされた措置であって、注文者検収前の商社の仕入計上をもって、注文者の検収と同視することはできないと考えられる。

ところで、注文者が商社や商社を加えた企業群に大規模なプラント建設工事を発注し、右企業群からその関連工事の一部を被告人会社が請け負うことがある。そして、右企業群が、注文者との契約に従い、プラント建設工事を自ら行い又はプラント建設工事のための機器等を納入し、注文者の組立据付け等を指導監督する責務を有するときは、当該企業群がその契約の履行者であり、その履行内容の検収者は、注文者である。かかる企業群において、右プラント建設工事に必要な機器、機材等を調達する際、被告人会社にその機器、機材等を国内の指定倉庫渡しの約定で注文する場合は、被告人会社にとって注文者は右企業群であり、その検収の相手方も原則として右企業群である。また、企業群との間に、右機材等の納入渡しの契約のほか、現地での当該機材等の組立据付け及び試運転指導について別の契約を結んだときでも、右機材等納入契約についての検収者は、企業群である。なお、機材等の納入のみが約定されている場合、明示ないし黙示に現地での試運転に立ち会うことや機材等の組立据付け後の性能保証が約定されていたとしても、前説示の次第でこれらの事項は売上計上日に影響を及ぼさず、前同様右企業群が引渡しを受ける機材等の検収者である。

次に、検収日は、相手方の検収した月日が証拠上確定できないときは、証拠上確定できる諸事実により合理的に推認することとする。

3  そこで、争点につき順次検討を加えるが、個別に判断しないものについては、さきに説示した売上計上基準に従い、前掲各証拠に基づいて別表(四)の各期別売上表の検収日(売上日)欄記載の月日に売上を計上すべきものと認められる。

以下、順次検討する。

(一) 七一九九番 兼松江商 五〇年九月二〇日 八三万八〇〇〇円

検察官は、被告人会社は四九年三月一日検収を受けたのであるから、四九年五月期の売上収入とすべきであるのに、五〇年九月二〇日に売上計上をした旨主張し、弁護人は、右の検収は注文者のものであり、兼松江商のものではない、仕事は完了しないまま中断した旨主張する。

角田秀雄の検面調書(検235)によれば、山陽色素工業は、四七年九月四日兼松江商に対し、同社東海工場に工業塩空気輸送装置一式の製造、据付け方を代金一四〇万円、納入後半額、検収後半額を一八五日の手形で支払う等の約定で発注し、兼松江商は被告人会社にこれを請け負わせたが、被告人会社の数次の手直し工事によっても設計書記載の性能が発揮できなかったため、四九年二月に西日本化工機にその後の補修調整をさせ、同年三月一日山陽色素工業の検収を受け引き渡したことが認められる。なお、角野浩二作成の回答書(検46)中の検収年月日の記載(一九七四年三月一日)は、右検面調書の内容に照らし、被告人会社工事完了の点に関する限り措信できない。

証人柏原(六回一九ないし二二丁)は、被告人会社は工事に着手したが、完成前兼松江商と相談の上、五〇年九月ころ契約金額の値引をして契約を終了させた旨証言する。そして、五一年五月期元帳(押35)に、五〇年九月二〇日八三万八〇〇〇円の売上が記帳されている。

以上によれば、被告人会社は、五〇年九月兼松江商との間で本件工事を合意で中止し、請負金額を八三万八〇〇〇円と改定し、同金額の売上収入を得たものと認められる。したがって、被告人会社の売上計上は正当である。

(二) 七二四一番 丸井パッケージ 四九年五月一〇日 一八五万円

弁護人は、被告人会社は、四九年七月一一日引き渡し、同月二〇日売上に計上した旨主張する。

大高嘉男作成の回答書(検47)、日比野昭作成の回答書(検48)によれば、丸井パッケージは、日比野商店に対し、丸井パッケージ綾瀬工場内に屑紙処理用空気搬送設備を据付渡しの約定で注文し、日比野商店は被告人会社にこれを請け負わせたことが認められる。なお、日比野の回答書には、機械設置場所が変更され、契約金額も増額されたが、その詳細は不明で代金支払状況も資料がなく、同人の記憶によれば、被告人会社に対し四九年一月一四日に一〇〇万円、同年七月一一日に八五万円を支払った旨記載されている。

被告人会社は、四八年一二月二四日付で日比野商店に対し、一五五万円の請求(押12の1)をし、四九年五月一〇日付で丸井パッケージに設備残金一式五五万円、同補修費三七万七〇〇〇円の合計九二万七〇〇〇円を請求している(押12の2)。そして、四九年一月一四日に一〇〇万円の入金、同年七月一一日に八五万円の入金を記帳し(検48)、同年七月二〇日に一八五万円の売上を計上(五〇年五月期元帳(押36))している。他方、五〇年五月期工事台帳(押4)中の同工番分には、四七年一二月二〇月の物品購入に始まり四九年五月二〇日の運賃、荷造費、据付費等が記帳されている。なお、証人柏原は、四九年五月期の決算時ころには、試運転確認前で被告人会社の売上計上基準に従えば未成工事について、工事原価の動きがないものは工事原価の動きがあるように原価の付け替えをした旨証言(四回一〇、一九丁、六回五ないし七丁等)している。

右の諸事実、殊に、被告人会社は四九年五月一〇日付で設備残金のほか補修費を請求していること、原価の付け替えの可能性のある工事原価発生支払状況でも同年五月二〇日に据付費があること等の事情によれば、右請求時の同年五月一〇日には発注先の丸井パッケージの据付試運転の検収を受けていたものと推認される。

なお、証人柏原は、四九年七月一一日被告人会社東京営業所の社員が検収を受けて代金の支払を受けた旨証言(六回二三ないし二五丁)する。ところで、49/5~50/5出張旅費精算書(押二5)によれば、被告人会社の本社社員岡本久雄は、四九年七月九日から同月一二日までの間、東京地区に出張し、綾瀬の丸井パッケージへも赴いているが、他方、右精算書の裏面によれば、丸井パッケージのほか多数の会社を訪れていることが明らかである。したがって、岡本は同年七月一一日ころに集金したことが窺われるが、岡本自身東京地区へ営業活動の一環として赴いたものと推測される上、四九年五月一〇日付で補修費等も請求していることからすれば、右証言部分は措信できない。

(三) 七三五二番 東洋曹達工業 五〇年二月二〇日 六六〇万円

弁護人は、被告人会社社員鳥越征二が五〇年五月一四日試運転に立ち会い、その後検収を受けた旨主張する。

証人楠本純一の証言(五五年七月二四日付尋問調書)、同人作成の回答書(検58)によれば、東洋曹達は、被告人会社に対し、自社南陽工場に空気輸送装置を六六〇万円、月末締切五か月後払い、納期四九年八月二〇日、据付渡しの約定で発注し同年九月二九日バックフィルター払い落し装置作動不良のため修理させ、五〇年二月二〇日出口切替弁取替えにより検収を終えた旨述べている。そして、被告人会社の出張旅費精算書綴(押二5)中には、鳥越征二の四九年九月一八日、一九日(配管指導等打合せ)、同年九月二七日から二九日(試運転立会い)、谷本茂の同年九月二七日から二九日(試運転立会い)、鳥越征二の同年一一月七日、八日の出張がある。

これらの証拠によれば、五〇年二月二〇日には、据付試運転後相手方の検収を受けたものと認められる。

なお、証人鳥越征二は、五〇年五月一四日同社を訪れ、バックフィルターに異常な音がするので、これを持ち帰り、同年夏に修理してこれを納入し検収を受けた旨証言(二四回一ないし三丁)する。しかし、鳥越の五〇年五月一四日の出張は、同人自身営業部員である(二二回一丁)上、同日付の出張旅費精算書(押二5)によれば、日本製鋼所への用務を兼ねた出張であること、前記証人楠本の証人尋問調書添付の入荷データ中のメモ書によれば、「七四・九・二九、バックフィルター払い落し装置作動不良のためクレームとして検収まちとする」、「七五・二・二〇炉布、耐圧限度保証期間について文書受領により出口切替弁、取り替えにてOKとする」旨の記載があることに照らし、同証言部分は措信できない。

(四) 七三六九番 千代田組 五〇年三月末 一四〇〇万円

弁護人は、鳥越が五〇年六月一三日客先の日本イトン工業へ出張し仕様変更の打合せをした後、試運転して検収を受けた旨主張する。

証人池田英道の証言(五五年七月二四日出張尋問)、同人作成の回答書(検61)、検察官作成の五九年五月二一日付報告書(検238)によれば、〈1〉日本セメントは、四八年一一月ころ千代田組に対し、日本イトン工業千葉工場に空気力輸送装置の据付けを代金一二〇〇万円、納期四九年六月末、納入翌月末半額、検収翌月末に残金を約束手形で支払う約定で請け負わせ、その後千代田組は被告人会社に対し、代金一〇九〇万円、納期三月末、試運転後三分の二、客先検収後残金を約束手形で支払う約定でこれを請け負わせた、〈2〉ところが被告人会社は、期限までに完成できず、四九年四月二三日千代田組に対し、オイルショック後の経済事情の変動を理由に工事金額の値増しと納期を遅らせるよう要請し、その結果、同社との間に四九年五月二〇日工事金額を三一〇万円値増しする、納期を四九年六月末にするとともに代金支払条件を別途相談することを約した、〈3〉その後四九年六月一二日、千代田組は納期を同年九月に延ばし、同年一二月に被告人会社に対し九八〇万円を支払い、五〇年三月日本セメントに売上を計上し、被告人会社の請求後、同年九月被告人会社に対し四二〇万円を支払った、以上の事実が認められる。なお、証人池田の検収時期についての証言部分は、同証人自身検収業務に従事していないこと、代金支払は当初から二回の分割とされていたこと、後記被告人会社社員が五〇年二月、三月に試運転のため出張していることに照らし、たやすく措信できない。

被告人会社は、千代田組に対し、四九年一二月七日付納品請求書(押12の5)で、内金として九八〇万円を請求し、更に、五〇年八月二九日付納品請求書(押12の6)で残金四二〇万円を請求している。なお、被告人会社は五一年一月二四日付納品請求書(押12の7)で日本イトン工業千葉工場向(発送五一年一月一〇日)として七〇万円請求し、五一年六月一〇日付納品請求書(押12の8)で右五一年一月二四日分再発行として同額を請求している。また、出張旅費精算書(押二5)によれば、吉岡一志の四九年八月二日から四日まで(高所機器組立指導)四九年九月一一、一二日(工場下見兼工事打合せ)、四九年九月二〇日から二三日まで(据付配管工事)、四九年九月二七日から同年一〇月八日まで(据付工事)の各出張が、港栄太郎の五〇年二月二四、二五日、同年三月四日から六日まで、同月二八日(試運転立会い)、穐友貴志の五〇年三月四日から六日まで(試運転)の各出張がなされている。これらの出張は五〇年五月期工事台帳(押3)の同工番工事費用に計上されている。

以上の諸事実を総合すれば、被告人会社は、四九年九月ころから機材等を納入して組立据付けをなし、四九年一二月千代田組から改定された代金一四〇〇万円の七割に相当する九八〇万円の支払を受け、その後五〇年三月二八日ころ試運転をしたこと、そして千代田組は、五〇年三月日本イトン工業側が検収したとして同社に対し売上を計上し、その後被告人会社から五〇年八月二九日付で残代金四二〇万円の支払を請求され、同年九月残代金を支払ったものと認められる。以上によれば、本件工事は、日本イトン工業側により、五〇年三月末には据付試運転後検収されたものと推認される。

証人港は、五〇年二月、三月の各出張は、本件工事分であるか否かわからない旨証言(四三回五ないし九丁)するが、さきに指摘の他の者の日本イトン工業千葉工場への出張の事実に照らし、措信できない。また、同証人は、五〇年六月ころバタフライバルブが作動不良のため作りかえた旨(四四回六ないし一一丁)、証人鳥越は、五〇年六月一三日同社へ出張したが、右の事由のため試運転ができず、後日設計担当の者が出張し補修した旨証言(二四回三、四丁)する。しかし、50/5~51/5出張旅費精算書(押二3)には、日本イトン工業への右所用を主目的とする出張を窺わせるものはない。かえって、五一年五月期の元帳(押35)中の一般管理費販売費の旅費勘定中に、五〇年七月三日付で鳥越の右期間の旅費が計上されている。また、前認定のとおり、追加工事については、被告人会社は、五一年一月二四日付納品請求書(押12の7)により七〇万円を請求しているが、同請求書には五一年一月一〇日発送と記載され、発送自体五〇年三月から相当期間経過していること、その売上記帳も、五二年五月期元帳(押34)には七三六九番の追加として七〇万円を売上計上し、七三六九番の工事として取扱ってはいない。

かかる諸点を考慮すれば、証人鳥越らの五〇年三月時点では未だ検収が終っていなかったとの証言は採用しえず、右証人らの述べるバックフィルターの工事がなされたとしても、その時期は五〇年三月検収後相当期間を経過したもので、右の工事が本件工事に含まれるものとは認められない。

(五) 七三七一番 丸紅 四九年八月三一日 八一万三四〇〇円 五一年一〇月二一日 五三六万〇六〇〇円

検察官は、四九年一〇月二一日には五三六万〇六〇〇円分の、四九年九月九日には八一万三四〇〇円分のそれぞれ関係工事の検収を受けた旨主張し、弁護人は、両工事は一体のものであり、五〇年一〇月二〇日検収を受けた旨主張する。

山内清蔵の検面調書(検239)、検察官作成の五九年四月二三日付報告書(検240)によれば、〈1〉大王製紙は、四八年一〇月五日丸紅に対し、三島工場の中之庄仕上工場(新工場)の耳紙風送及び梱包設備工事を代金五四七万円、納期四八年一二月末、検収後分割払の約定で請け負わせ(CMK五八三)、また、同日丸紅に対し、三島工場の新工場総合仕上設備、総合仕上、耳紙風送設備工事を、代金八三万円、納期四八年一二月末、検収後払いの約定で請け負わせ(CMK五八四)、丸紅は被告人会社に対し、四八年一〇月二二日、右CMK五八三を五三六万〇六〇〇円で、CMK五八四を八一万三四〇〇円で請け負わせた。〈2〉大王製紙は、CMK五八三につき、加圧シリンダー等の不良状態が頻発し、丸紅を通じて被告人会社に改造修理をしばしば求め、五一年一〇月二一日に至り検収をなし、CMK五八四の工事については、四九年八月三一日検収した、以上の事実が認められる。なお、千葉正彦作成の回答書(検62)、右回答書を前提に証言した証人山内清蔵の証言部分(一一回)は、右の各証拠に照らし、措信できない。

被告人会社は、丸紅から四八年一〇月二二日、納期四八年一二月末、金額五三六万〇六〇〇円と八一万三四〇〇円で受注(受注書、押19)し、その後各工事をすすめ、四九年九月九日付で八一万三四〇〇円の納品請求(押12の4)をし、これとは別に同日付で五三六万〇六〇〇円(別に、ベーラー追加承認額二〇万円)の納品請求(押12の4)をし、四九年九月二〇日付で八一万三四〇〇円(済と記載あり(押12の4))と五五六万〇六〇〇円の各納品請求(押12の4)をし、更に同年一〇月三〇日付で五三六万〇六〇〇円と二〇万円の納品請求(押12の4)をしている。

以上によれば、両工事は別個の工事であり、CMK五八四分は四九年八月三一日検収を受けたから、八一万三四〇〇円は五〇年五月期の売上収入となるが、CMK五八三分は、五一年一〇月二一日検収を受けたから、五三六万〇六〇〇円は係争年度外の五二年五月期の売上収入となる。

弁護人は、両工事は一体の工事である旨主張するが、右のとおり大王製紙では両工事を区分けして発注している上、被告人会社においても区分けして取り扱っているから、右主張は採用できない。証人柏原は、五一年秋にトラブルが発生し、営業員二名が出張している旨証言(六回二八丁)し、社員榊原富士彦らが五一年九月三日大王製紙へ出張(出張旅費精算書、押二3)しているが、当時、CMK五八三の工事は未だ検収を受けていないから、これをもってCMK五八四分の工事が未了で検収を受けていなかったということはできない。

(六) 七三七五番 住友電気工業 五〇年一月二五日 二〇五〇万円

弁護人は、被告人会社はA、B二式の一体の工事を請け負い、A工事については五〇年一月ころ完成させ、B工事については、納入すべき機材等を製造したが、客先から工事着手の指示がなく、五〇年七月工事は中止になったもので、五一年五月期の売上になる旨主張する。

証人臼井猛の証言(一二回)、同人作成の回答書(検63)によれば、住友電気工業は、四九年三月二日大三商会に対し、PEベレット空送装置二式を代金二六〇〇万円、検収後翌々々月末払い、関東制作所工場に据付渡しの約定で発注したが、その後Bライン工事を中止することとし、四九年一二月四日被告人会社とも協議の上、A・B二式のうち、Bラインの工事の中止を決定し、Bライン分九二九万七〇〇〇円の発注を取り消すとともに、被告人会社がBラインのため購入していた機材を九四万三〇〇〇円で引き取る、Aラインについては、仕様アップ分として三二六万三〇〇〇円及び被告人会社の材料、購入品の単価上昇分二四万一〇〇〇円を加算し、結局二一一五万円でAラインの工事を続行することにし、被告人会社の組立据付けに応じ、四九年七月二三日中間検収をして同年一〇月三一日大三商会に対し七八〇万円を支払う手続をし、四九年八月二五日にも中間検収をして同年一一月三〇日に七二〇万二〇〇〇円の、五〇年一月二五日最終検収をしたとして同年四月三〇日六一四万八〇〇〇円のそれぞれ支払手続をしたことが認められる。

被告人会社は、四八年一一月二九日大三商会から右の工事を二五〇〇万円で受注(押23、受注帳(押7)、工事別受注金額名細(押19))し、同工事のため設計図面等を作成し、その後契約金額の変更があり(検63)、四九年五月ころから同工場で製作に着手し(出張旅費精算書(押二4)によれば、玉井勝四九年五月二〇日から同月二五日(工事監督)、吉岡一志四九年五月二三日から同月三〇日(据付け指導)などの出張があるが、その後、土屋勝男四九年九月二日から同月四日(手直し)、米沢義博四九年一二月九日から同月一一日(手直し)、土屋勝男、山本猛雄五〇年一月八日から同月一一日(手直し)となっている。)、大三商会に対し、四九年八月一二日付で一四〇〇万円の、同年一一月二日付で六五〇万円の各納品請求(押12の3、4)をし、四九年八月三一日に一四〇〇万円の、同年一一月三〇日に六五〇万円の大三商会振出の約束手形を受け取っている。

以上の事実によれば、住友電気工業、大三商会、被告人会社間の取引は、当初AB二口の工事であったが、右三者間でB工事を中止するとともにA工事分の値増しを含めた契約内容と代金の改定の話合いがなされ、四九年一二月四日妥結に至り、被告人会社は既に受け取った金員をもって契約代金とすることに合意したものと推認される。そして、住友電気工業は、右改定された契約内容に従い、五〇年一月二五日据付試運転の検収をしたものと認められる。

被告人小泉は、五〇年七月ごろB工事の中止と代金の減額を申し込まれた旨供述三一回三九ないし四二丁)し、証人柏原は、被告人会社技術者が五〇年夏にも出張して工事をなし、五〇年末に四五〇万円分の工事の取消しを申し入れられた旨証言(六回二八、二九丁)するが、これらは、証人臼井の証言、ことに右証人尋問調書添付の禀議書、検収伝票の各記載内容と被告人会社従業員が五〇年一月八日から一一日まで手直工事のために出張した事実などに照らし、措信できない。

(七) 七三八八番 第一実業 四九年六月末 二一四八万五五〇〇円 五〇年三月末 三〇万円

弁護人は、右二つは一体の工事であり、五〇年三月以後も種々トラブルが生じ、五〇年一二月六日港栄太郎が打合せのため出張したこともある旨主張する。

第一実業の取引関係書類(押25)、仕入先元帳(押27)、支払関係書類(押30)、畠山秀和作成の確認書(検87)によれば、旭エンジニアリングは四九年三月一九日第一実業に対し、水島工場の3MEXエポキシフレーク空送設備一式を代金二二五〇万円、据付試運転渡しの約定で請け負わせ、第一実業は、四九年三月三一日被告人会社に対し、納期同年五月末、代金二一四八万五五〇〇円でこれを請け負わせ、同年五月三一日旭エンジニアリングが検収をしたとして、旭化成工業向売上伝票を、同日被告人会社向仕入伝票をたてた。

五〇年五月期元帳(押36)、五一年五月期工事台帳(押3)、受注帳(押7)、七三八八番のファイル(押39)によれば、被告人会社は、四八年一〇月二二日指図票(押7の4)を作成し、同年一〇月二九日と三〇日の二日間エポキシ樹脂吸引輸送テストを行い、同年一一月一〇日付で見積書を作成提出して折衝し、同年一二月三日付仕様書を作成し、前記発注により工事を進めて四九年五月一九日から二六日まで据付配管工事をなし、同月二七日から三一日までリークテストを終え、同年六月一日現場工事を立会完了し(押39)、同月一〇日付で納品請求(押12の2)し、同年七月一三日に第一実業から一一〇〇万円、同年八月一四日に一〇四八万五五〇〇円の支払を受けた。

次に、前記五一年五月期元帳(押35)、五一年五月期工事台帳(押3)、受注帳(押7)、注文書綴(押23)によれば、旭エンジニアリングは、五〇年三月二七日被告人会社に対し、水島工場に3MEXフレーク輸送設備予備品(ロータリーバルブのシャーピン、ルーツブロワー駆動用ギヤ等)を代金三〇万円で注文(旭エンジニアリング注文書受渡条件検収後渡し、五〇年三月二七日と二八日の承認印あり(押23))し、被告人会社は、五〇年三月二四日付で納品請求(七三八八―追、スプロケット三個、シャーピン二〇本、ルーツブロワー駆動用ギヤ一式、納入済と記載あり(押12の5))し、同年五月一日旭エンジニアリングから支払手続を受けた。

以上によれば、右二つの工事は、発注者も異なる別個のものというべきであり、二一四八万五五〇〇円の工事は、遅くとも四九年六月末には旭エンジニアリングが据付試運転をして検収したものと認められ、三〇万円の予備部品は、単品であるが、遅くとも五〇年三月末までには同社に引き渡し、その検収を受けたものと認められる。

証人港は、右工事の試運転の過程で、パイプが破損する等のトラブルが生じ、五〇年一二月一六日出張し、最終的な打合せをした旨証言(二〇回二一ないし二四丁、四〇回九ないし一一丁、四四回一一ないし一四丁)する。しかし、前記七三八八番のファイルには、五〇年一二月二二日付の「3MEXプラント10Bシュート管に関する事」と題する説明書が綴じ合わされ、同書面には、10Bシュート管がジャケット水圧で潰れたが、納入試運転後一年半以上も経過した後のことで、設計製作上のミスに起因するものではない旨の記載がある。右記載に照らせば、パイプ破損の事故は試運転とは無関係であり、試運転終了後の事態であることは明らかであるから、前記証言部分は措信できない。

(八) 七三九九番 四国段ボール 五〇年一月末 八五万円

弁護人は、代金を受け取った五一年一〇月ころ検収した旨主張する。

宮西芳実作成の回答書(検67)によれば、四国段ボールは、被告人会社に対しエアーコンベアー据付工事一式を代金八五万円で発注し、工事終了後、五一年一〇月一二日その代金を支払ったが、被告人会社からの支払請求が遅れたため支払が遅延したことが認められる。

被告人会社の五二年五月期工事台帳(押2)、七三九九―一のファイル(押42)によれば、被告人会社は、四国段ボールからエアーコンベアー据付工事一式を八五万円で請け負い、五〇年一月二九日付で納品請求(押12の5)し、五一年六月三〇日付で再び請求(押12の8)した。社員岡本久雄は、四九年六月二一日高知市神田に出張(同日付出張旅費精算書(押二5))しており、工事台帳中の工事直接費は四九年六月二〇日までに発生し、間接費は五〇年五月二〇日の決算で振替計上している。

以上の諸事情を総合すれば、四九年六月ころ工事がなされ、五〇年一月二九日付で右工事が完成したとして納品請求したものと認められ、同月末には相手方の検収を得たものと推認される。

なお、証人柏原は、トラブルが生じ五一年一〇月ころ工場へ出張して検収を受けた旨証言(六回三〇、三一丁)するが、五一年五月二一日から五二年五月二〇日までの間の出張旅費精算書綴(押二3)中に右に符合するものは窺われないこと、右ファイル中トラブル発生を窺わせる記帳がなされていないことなどに照らし、右証言部分は措信できない。

(九) 七四〇二番 第一実業 四九年七月二日 一五〇〇万円

七四〇三番 第一実業 五一年二月二六日 一三六万円

弁護人は、右二つの工事は一体の工事である、被告人会社は、七四〇二番の機材等納入後、客先の運転条件に合わせるため、七四〇三番の工事を追加受注して一連の工事をなし、社員榊原が五一年七月二六日試運転に立ち会った旨主張する。

畠山秀和作成の確認書(検87)、小川弘作成の確認書(検91)、第一実業の旭機工(株)水島技術課向SHSスタイロン用ニューマー部品と記載のファイル(押25の8)、仕入先元帳(押27)、支払関係書類綴(押30)によれば、第一実業は、旭化成工業からSHSスタイロン輸送設備機器一式(メウ六三〇五J、メイ六三〇四J、メイ六三〇六J、メウ六二一七J)を一六〇〇万円で、旭機工の水島工場に納入渡しの注文を受け、四九年二月五日被告人会社に対し、代金一五〇〇万円、納期四九年四月三〇日で請け負わせ、その後同年七月二日付の旭化成工業の物品受領書を得て、同年七月二二日旭化成工業宛一六〇〇万円の売上を、同日被告人会社宛一五〇〇万円の仕入を起こし、その支払手続をした。

被告人会社の七四〇二番、七四〇三番のファイル(押39)、五二年五月期元帳(押34)、五二年五月期工事台帳(押2)、受注帳(押7)によれば、被告人会社は、四八年一一月九日指図票(押7の4)を作成し、見積書、仕様書等を作成した上、これを製作して納入し、四九年五月二九日付で納品請求(押12の2)をした。なお、被告人会社は、右の工事分を含め第一実業、旭機工に価格の値増しを要請しているが、値増要請の関係資料(押25の1)には本工事分の四八年一〇月見積ベース、四九年一月実績ベースとしてそれぞれ単価が記載されている。そして、右値増要請は、種々の交渉の末、五〇年二月四日ころ総額で一八二四万二七〇〇円が認められ、同月一〇日に支払われた(検87)。

次に、旭化成(株)向SHSニューマ予備品と記載のファイル(押25の9)、前記畠山、小川弘の各確認書等の関係証拠によれば、第一実業は、旭化成工業から右ニューマ予備品の見積依頼を受け、五〇年六月二日付で見積書を提出し、同年七月二八日付で三一五万円の注文を受けたが、同年一〇月二二日注文範囲の変更があり、結局、一五九万七〇〇〇円で受注し(ファイル中の注文書(押25の9))、第一実業は、五一年二月二五日付注文書で被告人会社に対し、右注文範囲の予備品を一三六万円、旭化成工業水島工場車上渡し、納入検収後一〇日締め、翌月一〇日に一五〇日の約束手形払いの条件で発注(押23)し、右の予備品が納入され、五一年二月二八日に入金されることを確認して同月二六日売上伝票及び仕入伝票を作成(検87)し、同年五月支払手続(押30、検87)をした。

被告人会社は、五〇年五月期元帳等関係証拠によれば、右変更された予備品を製作して、五一年三月三日付で納品請求(発送月日欄に済と記載あり、(押12の7))をした。

右認定のとおりSHSスタイロン輸送設備機器を納入した後、相当期間が経過してニューマ予備品の注文があったことなどからすれば、右両者は、別個の工事であり、一体の工事とはいえない。そして、前者は、四九年七月二日付の物品受領書(押25の8)があり、その後、第一実業が同年七月二二日付で売上及び仕入を計上していることからすれば、同年七月二日注文者による納入後の検収が終ったものと推認される。また、後者の予備品も、同様にして、納入を確認して第一実業が売上を計上した五一年二月二六日(検87)には旭化成工業の検収が終ったものと認められる。

なお、証人柏原は、両工事は一体のものである旨証言(六回三一丁)するが、右認定の事実に照らし、たやすく措信できない。証人榊原は、七四〇二番の工事につき、仕様変更がなされるなどして試運転が遅れ、五一年七月に至って検収を終えた旨証言(二五回二一ないし二四丁)するが、小川弘作成の確認書(検91)、によれば、四九年七月二日に納品された後の仕様変更による追加工事につき、旭化成工業は同年一〇月二九日SHS工事スライドダンパー追加工事一式を代金一三万五〇〇〇円で別途、第一実業に請け負わせ、同年一〇月三一日には既に納入済としている。そして、被告人会社のSHS工事全体の値増要請に対し、右の追加工事分を加算して考慮し、五〇年二月の段階で値増金を支払っていることからしても、右の証言部分は措信できない。

(一〇) 七四〇五番 中央工機 四九年一〇月三〇日ないし五〇年四月一六日 二億五四八〇万円

弁護人は、被告人会社は中央工機産業(以下「中央工機」という。)から二億五四八〇万円の工事を受注したが、右売上は五三年五月期に売上計上すべきである旨主張し、次のとおりその理由を述べる。すなわち、日立製作所等は中国技術進口総公司(以下「公司」という。)からCPEプラント建設工事を受注し、被告人会社は中央工機を通じ日立製作所からポリエチレンのペレットを送る能力を有する空気輸送装置の製作とその組立据付け、試運転指導や試運転調整指導を請け負い、装置用機材を製作して指定場所に納入後、現地で組立据付けの指導等を行い、五二年一〇月公司が試運転をして検収をなしたものである。なお、被告人会社は右機材等を納入後、代金全額を受領しているが、右は被告人会社の資金繰り等のため、組立据付けの指導等が未了であるにもかかわらず、日立製作所に要請して支払を受けたものであり、前受金の受領である。そして、被告人会社は、右前受金のうち九五八〇万円を公表帳簿に記載しなかったが、当時、被告人会社においては組合運動が過激であったため、これに対処すべく一時的に前受金を秘匿したに過ぎず、いずれ公表帳簿に計上する予定であった。また、被告人会社は、中央工機を通じ、日立製作所と技術者の派遣に関する補充契約を結んでいるが、右は前記現地での技術指導のため必要な出費等を取り決めたものに過ぎず、当初の請負契約に基づき、その債務の履行として中国へ赴き、組立据付けの指導等をなしたものであるなどと主張する。

証人高橋紀行の証言(五四年八月二三日出張尋問)、志村政美作成の確認書(検82、83、84)、高橋紀行作成確認書(検85)、山根要二作成の確認書(検86)、注文書(押48)、注文書及び納品書(押49)、注文内訳書(押50)、納品書(押51)、請求書領収書(押52)、仕様書(押53)、貸方伝票及び借方伝票(押54)、検収証明書写(押55)によれば、次の事実が認められる。すなわち、〈1〉公司は、四八年七月二五日、三菱油化を乙とし、蝶理、西日本貿易、日立製作所を丙とし、「エチレンを原料とし低密度ポリエチレンを生産するプラント」についての契約書を取り交わした。右契約書によれば、大要、乙は、エチレンを原料とし、空気を触媒として低密度ポリエチレン樹脂を生産する、圧縮、触媒と調整剤の注入、重合、前処理、後処理、包装からパレタイズに至る完全なるプロセスのプラント装置(契約工場)を供給し、公司はこれを購入する、そのために乙は生産設備、電気設備、計器、計装及び自動制御装置、配管並びに据付材料、二年分の予備品、予備部品等を供給する責任を負い、同時に設計資料、生産技術資料、ノウハウ技術資料、特許技術資料、その使用権と技術サービスを提供する、乙は公司に対し、技術的に熟練した技術者を契約工場に派遣する、乙の技術者の職責及び公司が負担すべき乙の技術者の派遣費用及びその他の関係事項については、別途協議調印すること等を取り決めた(検85)。〈2〉公司と乙とは、四九年四月一一日技術者の派遣に関する補充契約を結び、乙の派遣する技術者の職責と任務の内容につき、原契約に規定された施工、据付け、試運転、仕込試運転、確認運転及び検収に関連する乙が負うべき責任と義務を履行することなどを合意し、そのための専門職務、人数及び勤務期間の目標、技術指導費等を合意した(検85)。〈3〉日立製作所は、乙の三菱油化に協力して、公司へ供給する計器や装置等を自ら製造してこれを船積み発送したほか、自社で製造しない物品については、他社に製造方を発注し、製造された装置や機器あるいはこれらの機材等を指定倉庫に納入させ、これを検収した後、自社の責任で公司宛送付する手続をした。また、日立製作所は、前記契約中の技術指導条項にそい公司側のなす組立据付けや試運転に立ち会い技術指導をしたが、外注した装置等で製造業者による直接指導等を相当とするものについては、当該装置等の製造業者に対し中国へ赴くように要請し、その旅費等につき技術者派遣契約を取り結んで契約工場現場へ赴かせ、乙側のなす技術指導の補助をさせた。また、納入された機材等について、トラブルが生じた際、納入業者に連絡して補修工事をさせたり、自社社員が修理等をした。〈4〉日立製作所は、契約工場の空気輸送装置につき外注することとし、被告人会社は見積書を提出するなどの受注活動を行い、日立製作所は、四九年一二月一〇日中央工機に対しCPE PLANT用空気輸送設備一式を代金合計二億六〇〇〇万円、輸出梱包指定場所渡しで発注(注文内訳書、押50)し、中央工機は、同日被告人会社に対し、右輸送装置用設備を二億五四八〇万円、支払条件打合せによる、指定場所輸出梱包渡しの約定等で発注(註文書、押48)した。〈5〉被告人会社は、その間、四八年八月六日仕様書を作成し、被告人小泉が中国へ赴くなどして検討し、改めて四八年一二月二一日付仕様書(押53)、四九年五月三〇日付及び同年一〇月一七日付見積書を提出するなどして前記のとおり同年一二月一〇日受注したが、五〇年春ころ、中央工機に依頼して一億五九〇〇万円と九五八〇万円の二つの註文書(押49)にして貰った。そして、被告人会社は、日立製作所で承認された仕様書等(日立製作所、CPE関係のファイル、押45)に基づき空気力輸送装置関係の機材等を製造し、四九年一一月から五〇年四月までの間に順次日立製作所の検査を受け、指定保税倉庫に納入(納品書、押51)し、中央工機に対し、四九年一二月二五日に四〇〇〇万円と八〇〇〇万円の、五〇年四月一五日に八九〇〇万円の、同年五月六日に四五八〇万円の請求をし、同社から、四九年一二月二七日以降五〇年七月二一日までの間に合計二億五四八〇万円の支払(押 52、54)を受けた。なお、中央工機は、日立製作所から、五〇年二月二七日から同年八月二九日までの間に合計二億六〇〇〇万円の支払を受けた(検86)。〈6〉被告人会社は、五一年五月ころ、日立製作所、中央工機と右契約工場への被告人会社技術者の派遣とその費用及び公司側の原因で生じた追加工事に関して協議(弁54)し、その結果、日立製作所は、五一年五月一一日中央工機に対しCPE用ニューマ据付指導を三二〇万円で発注(押50)し、中央工機は、同年六月九日被告人会社に対しこれを三一〇万円で発注(押37)し、被告人会社は、同年六月一五日付で中央工機に対し谷本、西野分として三一〇万円を請求(押49)した。また、被告人会社は、五一年六月、日立製作所の発注を受けた中央工機(押50)から右追加工事分を七六万円で注文を受け(押37、49)、これを製造して指定倉庫に納入し検収を受けた上、五一年六月一五日付で右両者の請求をし、同年七月一六日中央工機から合計三八六万円の支払(押52)を受けた。そして、被告人会社社員谷本らは、そのころ中国の契約工場へ赴き技術指導に携わった。〈7〉公司は、五二年八月一日右プラントの引渡しを受けこれを検収(押55)し、被告人会社は五三年一二月二一日最終仕様書を作成提出した。

以上の諸事実によれば、乙の立場にある会社は、公司の契約工場新設のための機材等を納入し、公司が行う組立据付けの指導や試運転の指導等を行う旨契約をなし、右指導等を行う費用などについては、別途補充契約書を取り交わしている。他方、被告人会社は、丙の一員である日立製作所から、右契約工場のプラント中の一部分につき、中央工機を通じて、その機材等の製造と指定場所への納入を請け負い、その後日立製作所との間で、中央工機を通じて乙側がなすべき技術指導の補助として、右納入した機材等の組立据付け、試運転の指導に当たることになったものと認められる。したがって、被告人会社のなした機材等の納入とその後の試運転指導等とは、別個の契約に基づくものとして個別に売上に計上すべきものと考えられる。けだし、被告人会社の契約相手方は中央工機を通じ日立製作所であり、公司との間には機材等の納入及びその後の技術指導等の契約を締結してはいない。そして、公司の契約相手方となった乙側は、前説示のとおり契約工場建設のための設備、材料等の物的なものの供給と、組立据付け等の技術指導を区分けし、そのための費用等も別途約定している。更に、丙の日立製作所も、前認定のとおり、機材等の製造納入業者が機材等を納入してこれを検収した後右業者による技術指導を必要と判断したときには別途、技術者派遣契約を締結して出張させ、乙側の社員として実際の指導に従事させている。右の点からすれば、日立製作所は、その発注者との間で、機材等の納入契約と技術者派遣契約を分けて締結していたものと解される。

なお、被告人小泉は、被告人会社が製作する空気力輸送装置は、組立据付け後試運転して初めて性能を有するか否か確認できるものであるから、当初から装置の機材等の納入のほか、これら機材等の納入後、中国における組立据付け及び試運転の指導をもあわせ行うことが予定され、これを含んだ費用も加算して請負金額を定めたもので、その後改めて技術者の派遣に関し契約を取り交わしたが、右は技術者派遣のための直接の出費等について取り決めをしたに過ぎず、また、被告人会社代表者として数次にわたり中国へ赴き設計の打合せや試運転指導をしているが、そのための費用等を請求していないのもその証左である旨供述(三三回、三四回九ないし一一丁、四七回一ないし九丁)する。しかし、日立製作所は、本件契約工場のため、被告人会社以外にも契約工場に用いる機材や機器の発注をしているが、被告人会社の機材等についてのみ特別な約定をした事情は窺われない。確かに、日立製作所の立場からすれば、製作業者との間に機材等の納入契約を交わした段階で、その機材等の品質性状によっては、右納入業者自身による直接の組立据付けの指導ないし試運転指導が必要とされる場合もありうるが、その場合、機材等納入と現地の技術指導協力を一括の契約で約定することはもとより可能であるけれども、機材等納入契約と技術指導協力契約との二つの契約で約定することも可能である。前認定のとおり、日立製作所は、被告人会社と技術者派遣契約を結んでいるが、前記高橋紀行作成の確認書(検85)中の被告人会社四八年八月六日付仕様書の(4)施行工事範囲別の(20)試運転調整の欄には、これが被告人会社の施工範囲内にあることを表示する◎は付されておらず、「別途」と記載してあり、いわゆる試運転調整については別途協議することを予定している上、五一年に至り技術者派遣費の交渉がなされ、その人数費用等が新たに決定されており、それまでの間に機材等納入の受注段階に予定されていたという派遣人数費用の変更が問題にされてもいない。以上の諸事実からすれば、被告人会社は、受注段階で、将来、被告人会社代表者らが中国へ赴き試運転指導等をすることを予測していたとしても、乙側に立つ日立製作所の社員として継続的な技術指導をすることを前提に受注したとは解されず、右供述部分は措信できない。なお、被告人小泉は、谷本や西野と同様に中国へ赴き、試運転指導等に加わっていた(二六回四二丁)が、同被告人は右技術者派遣契約の対象者ではないのであるから、被告人小泉が無償で中国へ赴いたからといって、技術者派遣による組立据付けの指導が契約内容に含まれていたとは考えられず、むしろ、被告人会社代表者として、自社が製造した装置用機材の組立据付け後、その性能を保証する関係で出張したものと解される。なお、仕様書等を作成するまでに被告人小泉が中国へ出張し滞在して打合せをするなどはいずれも受注活動の一環というべきであり、右出張の事実は、前認定を左右するものではない。

証人川崎祐弘(五四年八月二三日出張尋問)は、中央工機と被告人会社間の取引では、被告人会社が指定倉庫に機材等を納入した後、中国側でこれらを用いた装置の試運転をして当初の性能が発揮されたときに引渡しが完了する約定であり、その後、改めて完成図面を作成して契約が完全に履行されたことになる旨証言し、証人神崎公生も同趣旨の証言(五四年八月二四日出張尋問)をする。しかし、右の証言部分は、法的判断を含んだ証言である上、中央工機自体右機材等が納入された際、被告人会社からの仕入を計上する一方、日立製作所に売上を計上していること、日立製作所や中央工機との間で代金の一部を留保する旨の約定がなされておらず代金全額が支払われていること、被告人会社自身がその組立据付け等をするものではないこと、技術指導員派遣費用が別支給されたことに照らし、右証言部分は直ちに措信できない。

(一一) 七四〇六番 第一実業 五〇年八月末 一四五五万円

弁護人は、被告人会社は、第一実業を通じ、旭化成工業からメキシコのペメックスのプラント設計のほか、技術指導も請け負い、五〇年一〇月一三日被告人会社従業員港が設計図面の作成を打ち合わせてこれを作成したが、組立据付けの指導をし試運転に立ち会うべきところ、客先の都合で試運転が遅れ、結局、試運転の立会いを免れたものの発注先の旭化成工業が五四年五月試運転に立ち会ったものでそのときに売上を計上すべきである旨主張する。

証人川本嘉則証言(五五年三月四日出張尋問一五、一六丁、二〇ないし二四丁)、同人作成の供述書(検39)証人小川弘の証言(五五年三月四日出張尋問)、同人の質問てん末書(検 40)、同人作成の五三年一月一二日付(検92)、同月一七日付(検93)各確認書、畠山秀和作成の確認書(検87)、旭化成工業経営管理部作成の照会回答書(検203)、MEXICO向空気力輸送設備と記載されたファイル(押25の10)、仕入先元帳(押27)、支払関係書類綴(押30)、空送設備の設計に関する仕様書写(弁13)、業務分担詳細(案)写(弁14)、業務分担(写)(弁15)によれば、次の事実が認められる。すなわち、〈1〉メキシコ政府公社PETROLEOS MEXICANOS(以下「ペメックス」という。)と旭化成工業は、四八年四月一四日高密度ポリエチレンに関するライセンス及びエンジニヤリング契約(検92)を締結し、技術、エンジニヤリング、機器の調達サービス、プラント設備の現地建設に関する据付け、運転の指導等について取決めをした。〈2〉旭化成工業は、右の技術調達につき、自社で設計できない部分の設計業務一式を外部へ委託することにし、第一実業から四八年一一月九日付見積書(設計費用一二〇〇万円、図面代、出張打合せ費、英訳料、一般管理費三〇〇万円)の提出を受け、同年一二月二六日第一実業に対し一五〇〇万円でこれを発注し、同社は更にこれを被告人会社に対し、一四五五万円で発注した。〈2〉被告人会社は、設計書、仕様書を作成して提出し、第一実業に対し五〇年一月一三日付請求書(押12の5)により設計費一式一四五五万円(二月一〇日一〇〇〇万、三月一〇日残と記載あり)の請求をした。〈3〉旭化成工業は、五〇年二月一部検収をしたとして、同年三月第一実業に対し一二〇〇万円を支払う手続をしたが、一部仕様書の変更を指示し、五〇年八月変更された仕様書等を検収し、残金三〇〇万円を支払った(検40)。〈4〉第一実業は、五〇年二月一三日旭化成工業の検収を受けたとして、同日一五〇〇万円の売上を計上するとともに一四五五万円の仕入を計上し、同年四月一〇日被告人会社に対して一一六四万円を支払い、その後旭化成工業から残金の支払を受けた後、五一年九月一〇日被告人会社に対し二九一万円を支払った(検87、39、押30)。

以上の諸事実によれば、被告人会社は、第一実業を通じて旭化成工業から、ペメックス向けの空気力輸送装置関係の設計及び仕様書作成を請け負ったものに過ぎず、右設計書及び仕様書に基づく組立据付け等の現地指導までは請け負っていないものと認められる。また、右設計図面等は、五〇年一月末ころには旭化成工業に提出されたが、一部仕様書等の提出が遅れ、その後これらを提出し、五〇年八月末には旭化成工業の検収を全て受けたものと推認される。なお、商社である第一実業は、五〇年二月一三日に売上及び仕入を計上しているけれども、右認定の事情に照らすと、右の一事をもって、五〇年二月当時相手方たる旭化成工業の検収がすべて終っていたと考えることはできない。

被告人小泉は、被告人会社は設計業務のほか、その後の設計図に基づく組立据付け後の試運転調整指導を請け負っており、試運転終了後に売上を計上すべきである旨供述(三二回一五ないし一九丁)するが、前説示の理由で、右契約内容に関する供述部分は措信できず、右売上についての見解部分も採用できない。

証人港は、五〇年一〇月一三日旭化成工業の担当者と設計図面の作成について打合せをした。五三年には工事着工後試運転が遅れトラブルも生じた旨証言(二〇回二四、二五丁、二一回一ないし四丁)し、また、同人が五〇年九月二六日、二八日及び同年一〇月一五日にペメックス関係で出張したという出張旅費精算書(押二4)が存在する。しかし、前認定のとおり、旭化成工業は、五〇年八月第一実業を通じ被告人会社から提出された仕様書を検収して第一実業に残代金三〇〇万円を支払うことにより、旭化成工業と第一実業間の本件取引関係は終了したというのであり、第一実業は商社であって本件設計図や仕様書等について独自の検収を行うものではないから、被告人会社としては、旭化成工業が検収した五〇年八月をもって売上に計上すべきものである。そして、第一実業の営業サイドのミスにより同社の被告人会社に対する残代金二九一万円の支払が五一年九月まで遅延したこと、被告人会社は、本件のほか、ペメックス向けに分岐ダイバー、スライドゲート等の機材の製造を受注したが、五〇年三月ペメックスからデイバーターバルブ等の件でクレームが提起され、同年五月一三日ころには右の件で強硬なクレームを受け、同月三〇日改めてバルブの予備品を納品したが、同年六月一九日PO―〇六九につき解約を受け、同年九月二六日にはニューマ追加売買契約が締結されるなどその間に種々の折衝がなされたことが認められる(PEMEX等と記載のあるファイル(押26の1、2)、PEMEXと記載のファイル(押40))。右のような事情に照らすと、港の右証言及び出張の事実も未だ前記認定を覆すに足りない。

第一実業に勤務していた佐藤宏は、被告人会社は現地のメキシコで試運転に立ち会うことになっていた旨証言(二三回一一ないし一四丁、一九丁、四二丁)するが、前記業務分担詳細(弁14)にも、立会テスト欄の備考には「必要に応じてペメックスの指示と判断にて決定」と記載されていること、前記旭化成工業とペメックスとの契約内容(検92)に照らし、右証言部分は措信できない。

(一二) 七四五六番三井造船五〇年九月二三日四八〇〇万円

弁護人は、被告人会社は七四五六番の工事として右四八〇〇万円分に加え、四〇〇万円分の工事を一体として受注し、その後仕様変更も加わり、五二年一〇月には責任解除の話合いもしており、係争年度中には検収を受けていない旨主張する。

証人坂中博志の証言(五五年三月四日出張尋問)、坂中博志の検面調書(検243)、井上良輔の検面調書(検242)、永井邦昌作成の確認書(検89)、松山良文作成の確認書(検90)、注文要領書兼物品要求書(押56)、指定納品書及び注文書写(押57)、検収通知書(控)(押58)によれば、次の事実が認められる。すなわち、

〈1〉 中国技術進口総公司(前記のように「公司」という。)は、四八年九月二九日三井石油化学工業、三井造船を乙とし、伊藤忠商事、光商株式会社を丙として、プロピレンとエチレンを原料としてポリプロピレンを生産するプラントの契約をしたが、その契約書(検89)によれば、乙は公司に対し右ポリプロピレンを生産する工場の設備、材料、設計、生産技術等を売り渡し、そのための設備、装置、材料等を供給するとともに、据付け、機械試運転、仕込試運転、保証運転の技術指導等を行って技術役務を提供するとともに、設備や材料の引渡条件等を取り決めた(検89)。

〈2〉 三井造船は、右プラント建設の関係で、公司へ送付する機器や機材等を約三〇〇社に対して発注し、これを指定倉庫へ納入させて検収するなどして公司宛発送したが、右の各発注先との間では、所定の性能を保証すること、瑕疵ある場合には瑕疵の補修をすること、誠意をもってアフターサービスに当たり、据付け、調整、点検、補修、取替え、技術指導、試運転立会い等につき、発注者から要請のあったときは、速やかに指定場所に技術者を派遣して発注者に協力することなどを約定した(検90)。

〈3〉 三井造船は、四九年五月三一日被告人会社に対し、スライドダンパーAC二八台(九九八万四〇〇〇円)、ロータリーバルブ一八台(二三九一万三〇〇〇円)、二方切換弁二〇個(一四一〇万三〇〇〇円)を指定倉庫に車上渡しの約定で発注し、五〇年八月二七日に二方切換弁を、同年九月二三日他の二者を検収し、そのころ右代金の支払手続をした(押56、57、58)。他方、被告人会社は、五〇年一〇月二五日付で納品請求書(押12の6)を提出した。

〈4〉 三井造船は、被告人会社に対しスライドゲート弁等の仕様変更に伴う追加工事(合計四〇〇万円)を発注し、被告人会社は、これを製造して指定倉庫に納入し、三井造船は五一年一一月三〇日これを検収した(押57、58)。

以上によれば、四八〇〇万円の分は遅くとも五〇年九月二三日に、四〇〇万円の分は五一年一一月三〇日にそれぞれ検収を受けており、その間の注文納入過程をも考えれば、両者は別個の契約である。そして、四八〇〇万円の工事については、現地での技術指導は別途の契約事項となっていると解されるから、右五〇年九月二三日に売上を計上すべきものである。

なお、証人榊原富士彦は、当初図面どおり製作したが、三井造船から仕様の変更を求められ、機材等に手直しをして納入したが、右追加分の費用につき三井造船と交渉し、五二年一月一〇日同社へ赴き、四〇〇万円の値増しの交渉をするとともに、原契約によれば組立据付け後の試運転に立ち会うべきものを立ち会わないことにした旨証言(二五回一四ないし一七丁)する。しかし、前認定のとおり四八〇〇万円の工事と四〇〇万円の工事は別個の契約であり、試運転立会いは発注者である三井造船から要請があったときに協力すべき約定であるうえ、五一年一一月三〇日には検収を終え、そのころ右四〇〇万円は支払がなされているのであるから、五二年に至ってなお価格交渉の余地が残されていたとの証言部分は措信できない。

(一三) 七四六二番第一実業五一年三月末四九〇〇万円

五一年三月末二二万五〇〇〇円

弁護人は、客先へ右工番の機器を運んだが、客先の都合で工事が中断し、五一年九月一六日榊原富士彦が現地へ赴き交渉をしており、五一年五月期には売上を計上できない旨主張する。

証人川本嘉則の証言(五五年三月四日出張尋問二五、二六丁、三九回)

証人小川弘(五五年三月四日出張尋問九ないし二〇丁)、川本嘉則の五二年一一月一八日付質問てん末書問6(検38)、小川弘の質問てん末書問9(検40)、畠山秀和作成の確認書(検87)、小川弘作成の確認書(検91)、旭化成工業作成の回答書(検203)、第一実業のHFMプラント用ニューマ機器と題するファイル(押25の3)等の関係証拠によれば、次の事実が認められる。すなわち、〈1〉旭化成工業は、同社水島工場にHFM用機器を導入したプラントを建設しようと考え、四九年八月二二日第一実業に対し、HFMプラント用ニューマ機器一式を代金五一六七万円、水島工場車上渡しの約定で注文し(押25の3)、第一実業は、そのころ被告人会社に対し五〇五〇万円で発注した。しかし、旭化成工業は、その後いわゆるオイルショックのためプラントそのものの建設を延期したが、五一年三月再び工事に着手し、改めて第一実業に対し、ニューマ機器を代金五一六七万円、水島工場車上渡しの約定で発注し、被告人会社に対し、HFM用排気フィルターを二二万五〇〇〇円、水島工場車上渡しで発注(押25の3)した。そして、第一実業は、五一年三月九日被告人会社に対し、ニューマ機器を四九〇〇万円で発注した。〈2〉被告人会社は、右機器の設計図等を作成(押39、同番号のファイル)してこれらを製作し、五一年一月と同年二月にその検査を受け、水島工場へ納品したとして同年三月一五日付納品請求書(ニューマ機器分発送済、排気フィルター分納入済と記載あり、(押12の7))を提出した。第一実業は、五一年三月三一日付で、旭化成工業宛五一六七万円の売上伝票及び被告人会社宛四九〇〇万円の仕入伝票を記帳した。〈3〉旭化成工業は、その後再び右プラント建設を中止し、納入済機器のうち約三六〇〇万円相当分のものを他へ転用し、残余の約一四〇〇万円分の転用困難なものにつき、被告人会社にその引取方を依頼し、五二年六月三〇日被告人会社が四〇〇万円で引き取る(「旭化成水島HFM機器引取について」弁61)ことになり、第一実業を通じて旭化成工業に対し、同年一二月末二〇〇万円を、五三年三月末に二〇〇万円を支払うことにした。

以上の諸事実によれば、被告人会社は、旭化成工業に対しHFM用ニューマ機器と排気フィルターを同社水島工場渡しで引き渡す旨の約定をし、旭化成工業は五一年三月末にはこれを検査して受領し、その支払手続をなしたから、五一年三月末には検収を受けたものとして、売上に計上すべきである。

なお、五三年四月一一日付第一実業から被告人会社宛の請求書(弁62)には、「ニューマ機器値引に係る残金一式二〇〇万円」との記載があるが、右は弁61の「旭化成水島HFM機器引取について」に記載された引取代金中、五三年三月末限り被告人会社が第一実業を通じて旭化成工業に支払うべき金員の請求と解され、「値引に係る残金」と記載されていることを理由にしてHFM用機器の納入渡しが未だなされていなかったものと解することはできない。

被告人小泉は、五二年六月の段階でも値引の交渉をしていたから機器等を納入しても契約は終了しない旨供述(三二回七ないし九丁)するが、右機材等の納入分につき五一年五月と同年八月に代金相当額の約束手形を受領していることからして、右供述部分はたやすく措信できない。

証人榊原は、HFMニューマ機器一式は、相手方から納期を伸ばして欲しい旨依頼され、水島工場へ機器等を納入したが組立もされず検収も終らないまま引取方を要請され、五一年九月一六日、一七日に出張してその交渉をしたが、五二年六月退職時には引き取るまでに至らなかった旨証言(二五回一七ないし二〇丁)するが、前認定のとおり五一年三月には水島工場へ納入されて検収を受けており、その後は機材等の引取方が問題になったものに過ぎないから、右証言部分は前期認定判断の妨げとならない。また、証人川本の売上計上時期についての証言部分(三九回三丁)は、法的判断に関するものである上、右同様の理由で前期認定判断に影響を及ぼすものではない。

(一四) 七四七七番三菱モンサント五〇年四月三〇日四六万二〇〇〇円

弁護人は、相手方に納入後、港が五〇年六月一六日試運転に立ち会い、榊原が同月一八日から二〇日までの間に検収確認報告をした旨主張する。

奥慎吉作成の確認書(検70)によれば、三菱モンサントは、被告人会社に対し五〇年四月、連続自動サンプラー一式を四六万二〇〇〇円、検収月末締め、翌月末起算五か月手形支払、同年四月三〇日同社四日市工場納込み渡しの約定で発注し、同日これを検収したとして、同年五月三一日に支払手続をしたことが認められる。

被告人会社は、四九年七月指図票、(機器、連続自動サンプラー、四日市工場と記載あり(押7の3))や仕様書等を作成(同番ファイル、納入場所四日市車上と記載あり(押40))し、五〇年五月一五日四日市工場に納入済として納品請求(押12の6)している。

右諸事実、ことに、五〇年四月三〇日相手方が検収した旨の記載、被告人会社が五〇年五月一五日付で納品請求し、同月三一日相手方が支払手続をした事実にかんがみると、同年四月三〇日には納入渡しの相手方検収手続に従い検収を受けたものと認められる。

なお、証人港は、五〇年六月一六日同工場へ試運転立会いに赴いた旨証言(二〇回二五、二六丁)するが、同日付出張旅費精算書(押二4)には、四日市鉄鋼所、東曹四日市工場の翌一七日付出張旅費精算書(押二4)には三菱油化四日市工場の各記載があるだけで、試運転立会いを窺わせる記載にはなっておらず、また、証人榊原は、五〇年六月一八日から二〇日までの間に、東京都内の同社本社に赴き検収確認をした旨証言(二五回一一、一二丁)するが、かかるものを試運転立会いとは評価できず、いずれも措信するに足りない。

(一五) 七四九〇番日本合成ゴム五〇年三月一四日三一〇万円

弁護人は、榊原が五〇年一〇月三〇日検収確認の挨拶に赴いたから、五一年五月期の売上になる旨主張する。

証人大竹輝夫の証言(一三回)、同人作成の回答書(検74)によれば、日本合成ゴムは、被告人会社に対し、四九年九月一〇日空送配管材料(分岐バルブほか)一式を代金三一〇万円、月末締めで翌月末起算四か月の約束手形払、納期五〇年三月一三日、同社四日市工場へ荷卸渡しの約定で発注し、同月一四日これを受け取り検収したとして、同年四月末支払手続をしたことが認められる。

被告人会社は、設計図等を作成(同番号のファイル、押41)し、五〇年三月一五日付でDCA5二台、DCA3五台、RV3M二台をいずれも同月一三日に発送したとして納品請求(押12の5)した。

以上の諸事実によれば、五〇年三月一四日、荷卸渡しの相手方検収手続に従い、検収を受けたものと認められる。

なお、証人榊原は、五〇年一〇月三〇日に四日市工場へ出張し、検収の挨拶をした旨証言(二五回一二丁)する。なるほど、同日付出張旅費精算書(押二4)によれば、同人は同日四日市へ出張しているが、前記同年三月一五日付で納品請求をしていることからすれば、機器の納品渡しの検収に立ち会ったものではない上、回答書によれば、日本合成ゴムは、これとは別に同年一一月一七日同四日市工場向けに三方切替弁、ロータリーフィーダーの発注をしていることが認められ、前記出張は、本件納入分の試運転立会いとは窺われない。

なお、証人鳥越は、右の検収挨拶後トラブルが生じ、五一年二月二七日同工場へ出張した旨証言(二四回五、六丁、同日付出張旅費精算書、押二4)するが、前記ファイル中にはその旨の記載がない上、大竹の証言(一三回五丁)によればトラブルが生じたとは窺えないこと、前記回答書によると五〇年一一月一七日発注分についても五一年一月三一日検収を受けていること等を考慮すると、右証言部分はたやすく措信できない。

(一六) 七四九三番三菱化成工業五〇年三月二五日八五万円

七五〇五番三菱化成工業五〇年四月九日七三〇万円

弁護人は、右の両工事は一体の工事であり、港が五〇年七月九日試運転に立ち会ったもので、五〇年五月期の売上にはならず、五一年五月期の売上である旨主張する。

七四九三番分の工事につき、証人西川正昭の証言(一四回)、馬場良和作成の回答書(検52)によれば、三菱化成工業は、四九年一二月二三日被告人会社に対し、L507ドライヤー排出ロータリーバルブ一基を代金八五万円、検収月末締切、翌月末起算四か月の約束手形払、納期五〇年一月一五日、同社北九州市八幡区の黒崎工場船車乗りの約定で発注し、同年三月二五日納入されたものを検収して、同年四月末支払手続をしたことが認められる。

被告人会社は、ギヤードモーター仕様変更の指示を受け、これを変更した上で製作し(同番のファイル、押41)、五〇年三月一七日納品請求(五〇年三月一四日発送、L507ドライヤー排出ロータリーバルブ、L506改造一式と記載あり(押12の5))した。

次に、七五〇五番の工事につき、証人吉田日出昭の証言(一一回)、同人作成の回答書(検81)によれば、三菱化成工業は五〇年一月九日被告人会社に対し、空気輸送設備機器(ロータリーバルブ等)一式を代金七三〇万円、四か月の約束手形払い、納期同年三月一五日、同社四日市工場に工場船車乗りの約定で発注し、同年四月四日と七日に納入された機器を同月九日に検収し、同年五月末代金支払の手続をした。

被告人会社は、右の機器の仕様書等(同番のファイル、押41)を作成し、これを製作して、五〇年四月八日付で納品請求(五〇年四月七日発送と記載あり(押12の5))した。

右認定のとおり七四九三番は黒崎工場向け、七五〇五番は四日市工場向けであり、その発注年月日も異なることからすれば、両工事は別個の工事であり一体の工事ではない。また、七四九三番は五〇年三月二五日に、七五〇五番は同年四月九日に指定場所に納入後いずれも検収されたものと認められる。なお、被告人会社は、三菱化成工業の工場へ納入し、同社が組立据付けを終つた後、調整員の派遣、試運転立会いを求められることがある(弁59)としても、前説示の次第で、右認定判断に消長をきたさない。

なお、証人港は、両者は一体の工事であるとして、五〇年七月九日四日市工場へ出張し試運転に立ち会った旨証言(二〇回二六、二七丁、四三回一二ないし、一五丁、四四回一四、一五丁)する。しかし、前認定のとおり両工事には何ら関連がないから、四日市工場への出張をもって黒崎工場の七四九三番の試運転立会いに赴いたことにはならない。そして、前記吉田日出昭の回答書によれば、四日市工場では五〇年六月から同年一〇月の間ロータリーバルブの修理関係の発注もあることが窺われ、右出張が七五〇五番分の試運転立会いのための出張であったかどうかさえ判然とせず、仮に右試運転立会いの出張だとしても、本件契約は納入渡しの約定であるから、売上計上時期に影響はない。

(一七) 七五〇二番味の素五〇年二月二六日一七〇万円

弁護人は、港が五〇年六月一六日試運転に立ち会ったもので、五一年五月期の売上収入である旨主張する。

証人安達正一の証言(一二回)、若松八郎作成の回答書(検66)によれば、味の素は、四九年一二月二三日被告人会社に対し、アミノ酸結晶空気力輸送設備一基の製作を代金一七〇万円、検収月末締め、翌々月一五日振出九〇日の約束手形で支払うことにし、五〇年二月二六日同社四日市工場でその検収をして、同年四月一五日支払手続をした。被告人会社は、四九年八月七日代金一六八万円、東海工場車上渡しの見積書を提出し、同年一一月二五日には一七八万円の見積書を提出(同番のファイル、押41)し、これを製作して五〇年二月二一日付で納品請求(押12の5)をしている。

右認定のとおり被告人会社が五〇年二月二一日付で納品請求し、味の素が同月二六日これを検収して、同年四月一五日支払手続をしたことからすれば、五〇年二月二六日には味の素の検収を受けたと認められ、五〇年五月期の売上となる。

なお、証人港は、五〇年六月一六日味の素の四日市工場へ赴き、そのとき検収を受けた趣旨の証言(二〇回二六丁)をする。しかし、出張旅費精算書(押二4)には、四日市鉄興社とのみ記載され、翌一七日付同精算書(押二4)にも、三菱油化四日市工場等と記載され味の素四日市工場の記載がないこと及び前記認定事実に照らして、右証言部分はたやすく措信できない。

(一八) 七五一六番日産石油化学五〇年五月三〇日一一五万円

検察官は、被告人会社は五〇年五月一五日に売上を計上すべきであると主張し、弁護人は、港が五〇年一二月二三日試運転に立ち会っており、五一年五月期の売上収入である旨主張する。

加納敬一作成の確認書(検88)によれば、日産石油化学は、被告人会社宛買掛金勘定日計表の五〇年五月三一日貸方に一一五万円を計上し、同年七月三一日借方に一一五万円を計上した。

被告人会社は、五〇年四月一〇日指図票(受渡場所千葉工場と記載あり(押7の3))を作成し、同日付でルーツブロワーMB一五〇型につき一二〇万円の見積書を提出(同工番のファイル、押41)し、結局、これを一一五万円で受注製作して、五〇年五月一五日付で納品請求(同年四月一一日発送、同社千葉工場と記載あり(押12の6))した。

以上によれば、本件契約は納入渡しの約定であると認められるところ、前記ルーツブロワーは、右ファイル中に設計図面等が綴じ合わされていないけれども、その目的及び代金の額に照らし、被告人会社の取引分類上、単品ではなく機器の製作と推認される。そして、被告人会社は、五〇年四月一一日右機器を発送し、同年五月一五日付で代金を請求し、他方、日産石油化学は、五〇年五月三一日に買掛金を計上しているが、その検収日は本件全証拠によるも明らかでない。同社は、右物品受取後、相当期間内に検収をしたものと窺われるが、五〇年五月二〇日までの間に検収をしたものとは未だ認められず、遅くても買掛金計上日の五〇年五月三一日までには検収したと推認される。したがって、右売上は五一年五月期の売上と判断され、被告人会社自身五〇年一〇月二〇日で売上計上しているから、いずれにしろ売上繰延べにはならない。

なお、証人港は五〇年一二月二三日から二七日までの間同社へ出張し、能力アップのためルーツブロワーを取り替え試運転の上検収を終えた旨証言(二〇回二五丁、四三回一ないし五丁、四四回一ないし六丁)する。しかし、被告人会社自身五〇年一〇月二〇日付で売上を計上している上、前記ファイルによれば、五〇年五月ころ、同社からMB一五〇型ルーツブロワー修理一式を七〇万円で受注し、同年七月八日付で納品請求(押12の6)しており、右修理は五〇年七月八日には完了していたと窺われるから、右証言部分は措信できない。

(一九) 七五三七番三菱化成工業五一年五月一八日三一万五〇〇〇円

弁護人は、榊原が五一年七月一六日三菱化成工業の本社で検収を受けた旨主張する。

証人西川正昭の証言(一四回)、馬場良和作成の回答書(検52)によれば、三菱化成工業は、五一年一月二六日被告人会社に対し、ロータリーバルブ一台を代金三一万五〇〇〇円、検収月末締切、翌月末起算四か月の手形支払、納期五一年一月三一日、同社黒崎工場に車乗りの約定で発注し、五一年一月二九日納品を受け(証人西川の証人尋問調書添付の五一年一月二六日付買付台帳)、同年五月一八日検収したとして同年六月末その支払手続をしたことが認められる。

被告人会社は、仕様書等を作成(同番のファイル、押24の1)し、五一年一月一四日付で三五万円の見積書(着工済と記載あり)を提出し、これを製作して同年三月二二日付で納品請求(同年一月三一日発送、黒崎工場向納入済と記載あり(押12の7))した。

以上の事実によれば、五一年五月一八日検収を受けたことは明らかである。

なお、証人榊原は、五一年七月一六日同社東京本社で検収引渡しの確認をしたかのごとく証言(二五回二四、二五丁)するが、右は試運転立会調整ということもできない。

(二〇) 七五五二番千代田化工建設五一年五月一五日二〇五万五〇〇〇円

弁護人は、鳥越が五一年三月一九日客先に出張し、無負荷運転に立ち会ったが、サイレンサーが機能せず、いったん朝日機工ヘブロワーを返送した後、補修工事をなし、五一年夏に検収を受けた旨主張する。

大野久夫作成の回答書(検30)には、注文書(押30)及び支払台帳に基づき作成したとして、千代田化工建設は、五一年五月一四日被告人会社に対し、GHDS、CATALYST取替一式を代金二〇五万五〇〇〇円、検収後翌月一五日、五か月の手形払、三菱石油水島工場に据付試運転(但し、注文書には記載なし)検収後渡しの約定で発注し、五一年五月一五日検収の上、同年六月一五日支払手続をしたとの記載がある。

同番のファイル(押24の23)によれば、被告人会社は、五一年一月一七日付見積仕様書を作成したが、その後千代田化工建設から、五一年一月二七日付の「機器製作依頼について」と題する書面により、直接脱硫装置触媒取替工事のための機器について同社水島事業所に車上積荷渡し等の約定で見積依頼を受け同月三〇日指図票(押7の2)をつくり、同日付で二〇五万五〇〇〇円の見積書を提出し、工事機器予定表によれば、納入場所水島、車上、納期五一年二月二九日(押24の23)として製造に着手し、同年三月一日付で納品請求(五一年二月二八日発送済と記載あり(押12の7))し、鳥越征二は同年三月一九日千代田化工建設水島へ出張(同日付出張旅費精算書、押二4)した。

回答書(検80)の据付渡しの記載は、これより前の「機器製作依頼について」と題する書面の納入渡し(押24の23)、被告人会社の指図票の受渡場所水島事業所とのみ記載し据付渡しの記載がないこととも相違し、その実態は判然としないが、千代田化工は、五一年二月二八日ころ機器等の納入を受け、同年三月ころ鳥越の訪問を受けていること及び右回答書の記載からすると、当初の納入渡しから据付渡しに約定が変わったものとも考えられ、五一年三月ころ納入された機器の据付をするなどし、同年五月一五日その試運転を終えて検収したものと推認される。したがって、本件工事は、納入渡しあるいは据付渡しのいずれにしろ、五一年五月一五日には相手方の検収を受けたものと認められる。

なお、証人鳥越は、五一年三月一九日付出張旅費精算書(千代田化工建設水島、水島アロマ、三菱ガス化学水島)をもとに、弁護人主張にそう証言をしている。(二四回六ないし九丁)。しかし、同工番のファイル中には納品後右五一年五月一五日までの間、あるいは五一年五月から同年夏までの間にブロワー取替えを窺わせる書類は見当たらないこと、千代田化工建設は五一年五月一五日検収をしたとして同年六月一五日支払手続をしていることに照らし、右三月一九日後のブロカー取替えを前提にした証言部分は措信できない。

(二一) 七五六一番三菱化成工業五一年五月一五日一七万円

弁護人は、榊原が五一年七月一六日三菱化成工業本社で検収引渡しを確認した旨主張する。

証人西川正昭の証言(一四回)、馬場良和作成の回答書(検22)によれば、三菱化成工業は、五一年四月一二日被告人会社に対しスライドゲートバルブ一式を代金一七万円検収月末締切、翌月末起算四か月の手形払い、納期同年五月一五日、同社水島工場荷卸しの約定で発注し、同年五月一五日納入を受け(証人西川の証人尋問調書添付の同年四月一二日付買付台帳)、同年五月一五日その検収をし、同年六月末支払手続をした。

被告人会社は、これを受注(受注帳、押7の2)し、その仕様書等を作成(同番のファイル、押24の20)し、五一年四月二三日付で納品請求(同年四月二二日発送と記載あり(押12の7))をした。

以上によれば、五一年五月一五日納入渡し後の検収を受けたものと認められる。

なお、証人榊原は、五一年七月一六日付東京への出張旅費精算書(押二3)をもとに、同日本社で検収を受けた旨証言(二五回二四、二五丁)するが、右は水島工場に納入された本件機器の試運転立会調整とは認められない。

(二二) 七五六四番日本スチレンペーパー五一年四月二〇日二九〇万円

弁護人は、本来試運転が必要な装置で、納入後五一年五月二〇日以降に東京支社担当員が検収している旨主張する。

証人多久島明の証言(五五年七月二四日出張尋問)、同人作成の回答書(検69)によれば、日本スチレンペーパーは、五一年三月被告人会社に対し、ペレット風送用機器一式(ロータリーバルブRV3M型三台、ロータリーバルブRV05型六台、分岐バルブDCA4型二台)を代金二九〇万円、五一年一〇月三一日期日の約束手形で支払、納期同年四月二〇日、同社鹿沼工場で引渡しを受ける約定で発注し、同年四月二〇日右機器の検収をして、同年五月三一日代金の支払手続をしたことが認められる。被告人会社は、五一年三月五日付見積書を提出し、受注して仕様書等を作成(同番のファイル、押24の19)し、これらを製作し五一年四月二二日付で納品請求(五一年四月二〇日発送と記載あり(押12の7))をしている。

以上の事実によれば、日本スチレンペーパーは、右購入した機器の据付けを注文しておらず、機器が指定場所に納入された後、五一年四月二〇日これを検収したものと認められる。

なお、証人榊原は、五一年夏ころ担当の者が検収に赴いた証言(二五回二六丁)するが、その証言自体判然としない上、仮に据付試運転がなされたとしても、既に納入渡しで検収が終っているから、右証言部分は前認定判断の妨げとならない。

(二三) 七五六六番第一実業五一年七月一八四万三〇〇〇円

検察官は、被告人会社は五一年五月二〇日に検収を受けているのであるから、五一年五月期の売上に計上すべきであると主張し、弁護人は、榊原が五二年二月一五日検収引渡しに立ち会った旨主張する。

畠山秀和作成の回答書(検87)、第一実業の支払関係書類綴(押 30)によれば、第一実業は、五一年三月六日旭化成工業から空気輸送用部品を代金一九〇万円、納期同年五月一五日、同社水島工場車上渡しの約定で受注し、そのころ被告人会社に対し代金一八四万三〇〇〇円で発注し、同月二〇日旭化成工業が発送を受けたとして、同月三一日右関係の売上伝票及び仕入伝票をたて、同年七月一六日被告人会社に代金を支払った(支払承認票、仕入伝票、押30)。

被告人会社は、五一年三月八日右物品(ロータリーバルブ一式、二方分岐弁三台、手動ダンバー一台)の製作を受注し(受注帳、押7の2)、設計図等を作成(同番のファイル、押24の47)し、これらを製作して同年五月二〇日付で納品請求(同日発送、水島工場と記載あり(押12の8))した。

右物品は同ファイル中の設計図等によれば、被告人会社分類の単品ではなく、機器と認められる。相手方の右機器の検収は、被告人会社の五一年五月二〇日付の発送及び代金請求後、代金が支払われた同年七月までの間になされたことは明らかであるが、その時期は本件全証拠によるも判然とせず、旭化成工業の持込渡しの検収状況を的確に知る資料は乏しい上、旭化成工業の関連企業旭エンジニアリングの場合、亀川清の回答書(検60)によれば、持込渡しの約定の場合、必ずしも持ち込まれた当日に検収がなされたものばかりではないから、納入日の五一年五月二〇日に検収されたものとは未だ認定できない。

そうすると、右は五二年五月期の売上になるべきところ、被告人会社は五二年二月二〇日の売り上とし、いずれにしろ五二年五月期の売上に計上しているから、売上の繰延べがあったとすることはできない。

(二四) 七五六七番旭化成工業五一年五月一二日一一〇万円

弁護人は、穐友貴志が納入後試運転に立ち会い検収を受けた旨主張する。

亀川清作成の回答書(検60)によれば、旭化成工業は、五一年三月一〇日被告人会社に対し、3MEX空送系ルーツブロワー一式を代金一一〇万円、同年五月一二日倉敷市の旭チバ工場に持込車上渡しの約定で発注し、旭エンジニアリングは、同年五月一二日これを検収したことが認められる。

被告人会社は、見積書等を作成(同番のファイル、押24の48)し、五一年三月一〇日受注(受注帳、押7の2)して同年四月八日付で納品請求(同月七日発送と記載あり(押12の7))している。

右証拠によれば、右工場に持ち込まれた後、五一年五月一二日に旭化成工業の委託を受けた旭エンジニアリングの検収を受けたものと認められる。

なお、証人柏原は、東京営業所の者が、納入後の試運転立会いのため出張した旨証言(六回四〇丁)するが、これを的確に認める証拠はない。また、五二年一月二六日付の出張旅費精算書(押二3)によれば、穐友貴志は、同日倉敷市の旭エンジニアリングのB地区へ出張しているが、同精算書の出張目的欄には「機器打合せ」と記載されているだけであって、いずれも前記認定を妨げるものではない。

(二五) 七五六八番神戸製鋼所五一年三月一五日五四万五〇〇〇円

弁護人は、被告人会社は製品の納入のほか、英文の設計図、仕様書を提出することになっていたところ、製品納入後二、三か月後に英文の設計図等を提出し、全ての債務を履行した旨主張する。

神戸製鋼所作成の回答書(検50)によれば、同社は、五一年二月一八日被告人会社に対し、MMICチッピングバルブASM一式を代金五四万五〇〇〇円、三か月据置現金払、納期同月二〇日、丸永梱包持込渡し(車上渡し)の約定で発注し、同年三月一五日これを検収したとして、同年六月三〇日支払手続をしたことが認められる。被告人会社は、右発注を受けた後、設計図等を作成(同番のファイル、押24の7)し、これを製作して同年二月一八日検査を受け、同年三月六日付で納品請求(丸永梱包(株)向納入済と記載あり(押12の7))している。

以上によれば、被告人会社は五一年三月六日には丸永梱包へ納入し、同月一五日に神戸製鋼所の検収を受けたものと認められる。

なお、被告人小泉(三二回七丁)及び証人港(二〇回二九ないし三二丁)は、引合仕様書(弁60)をもとに、英文の関係書類等を作成するよう求められたが、その作成が遅れ、納品後二、三か月後にこれらを作成して引き渡したから、五一年五月二〇日段階では債務の履行は完了しておらず、売上計上すべきではない旨供述する。しかし、英文資料の提出を求められているとしても、本件においては、右は機器の指定場所に納入する契約に附帯したものと解され、主要な債務の内容と解することはできない。したがって、英文資料の提出がなくても、機器等を納入し相手方の検収を受けたときに、売上計上をするのが相当である。

三  不正行為とほ脱の故意、共謀

1  前認定の売上が繰り延べられたものについて、次の不正行為が認められる。

(一) 装置や機器の据付分

被告人会社は、装置や機器を組立据え付けて試運転を終了し、相手方の検収を受けたにもかかわらず、総務部長の柏原において右検収日に対応する年度分に売上を計上していない。そして、右工事の原価を付け替え、右検収日以後もなお工事が続いている旨の記帳をしている。

(二) 装置の機材、機器、機器の機材の指定場所納入分

被告人会社は、右の場合も相手方試運転終了日を売上計上日とする方法を採用し、柏原は右機材等納入後の相手方検収日を売上計上日とせず、これに対応した年度の売上に計上してない。被告人会社の右計上基準に合理性がないことは、前に説示したとおりである。しかも、柏原は、当該工番に対応する原価を付けるべきであるのに、他の工番分の原価を付け替え、その結果、当該工事では支出していないものを工事原価に加え、既に製作納入を終え相手方の検収も終了しているのに、なお機材等を製造しているかのように作出している。

(三) 単品の引渡し

被告人会社は、相手方に引渡しをしたにもかかわらず、柏原はこれに対応する日の年度の売上に計上しなかった。

2  被告人会社には、次の売上除外の不正行為が認められる。

(一) 七四〇五番中央工機分の九五八〇万円

弁護人は、前受金の一部を公表帳簿に計上しなかった旨主張するが、前受金でないことは前説示のとおりである。

被告人小泉は注文書の分割を依頼し、売上金中九五八〇万円を別途取り立て、柏原はこれを仮名又は無記名の定期預金として管理していたにもかかわらず、五〇年五月期の公表帳簿に計上せず、五〇年五月期の売上金として申告所得に加算していないから、中央工機に対し積極的に右金員の支払事実を隠匿するよう依頼していなくても、柏原らにほ脱の故意があれば、右の行為は不正行為というべきである。なお、中央工機への反面調査あるいは銀行照会により容易に右金員の受領事実を捕捉できるとしても、右認定判断を左右するものではない。

(二) 無工番第一実業四九年一〇月二〇日一八二四万二七〇〇円

小川弘作成の確認書(検91)、旭ダウ(株)水島工場殿と記載のファイル(押25の1)、ニューマ部品と記載のファイル(押25の8)等の関係証拠によれば、被告人会社は四八年ころから、第一実業を通じ旭化成工業水島工場でAHS、SHS、3MEX等の工事をしたが、いわゆるオイルショックで工事原価が高騰したため価格の値増しを要請し、四八年一〇月当時の見積ベースと四九年一月時点における実績ベースを基に、値増対象の範囲と金額を交渉し、その結果旭化成工業は値増金を支払うことになり、四九年一〇月二九日AHS等工事の価格改定分(合計三五〇万円)のほか、既に工事済みの追加工事分(合計一四九二万七〇〇〇円)を支払う手続(検93)をした。そして第一実業は、同年一〇月二〇日に検収を受けたとして、同年一二月二八日旭化成工業向け一八四二万七〇〇〇円の売上伝票と被告人会社向け一八二四万二七〇〇円の仕入伝票をたて、五〇年二月一〇日被告人会社に対し支払手続(検87)をした。なお、右認定事実によれば、前記金員は、リベートないし預り金とは解されない。しかし、柏原は、右値増金分等を含めた前記金員につき、公表帳簿に計上していない。

(三) 無工番日産石油化学五〇年一二月末三〇〇〇万円

松野正光の質問てん末書(検44)、加納敬一の確認書(検88)、見積書(押59)、納品書(押60)、請求書(押61)、領収書(押62)等関係証拠によれば、被告人会社は、日産石油化学から五〇年八月四日同社の〈75〉プラントに増強気力輸送装置機器の据付けを三〇〇〇万円で請け負い製作工事をなし、同年一一月二五日付で納品書(押60)及び請求書(押61)を提出し、同月三〇日同社の都合のため便宜検収を受けたことにし、同年一二月二〇日ころから約一週間実際に試運転を行い、五一年一月末ころ同社が支払手続をした後、同年四月一日領収手続(押62)がなされている。以上によれば、五〇年一二月末には、試運転を終了し検収を受けたにもかかわらず、柏原は売上金を公表帳簿に計上せず、五一年五月期の売上金に加算していない。そして、柏原は、右工事原価を他の工事の原価として付け替えている(検12)。右の行為は、不正行為というべきである。

3  弁護人は、被告人小泉には、売上除外分についてほ脱の故意がない旨主張し、次のとおりその事由を述べる。すなわち、被告人会社は過去に売上除外をしたことはなく、税務当局から従前その点について指摘されたこともない、公表帳簿に計上しなかったといっても、入金自体を秘匿しておらず所得隠匿の意思はなかった。右経理処理は、本件各係争年度時、従業員による過激な組合運動が発生しており、組合員にその所得の一部を知られないようにするため、一時公表帳簿に計上しなかったものであり、いずれ公表帳簿に計上するつもりであったなどとその理由を述べる。被告人小泉は同旨の供述(二七回一ないし一四丁等)をし、証人柏原も公表帳簿未計上の事由について、同様の証言(三回一九ないし三〇丁、六回一二ないし一九丁等)をする。

しかし、柏原は、前記1、2に説示のとおり不正に売上を繰り延べるなどし、かつ、不正に売上を除外していることは明らかである。ところで、被告人小泉は、被告人会社代表者の立場にあり、被告人会社が受注した各工事の装置、機器、単品の製作並びに装置、機器の組立据付け、試運転と相手方の検収、装置の機材、機器、機器の機材の納入と相手方の検収及び単品の引渡しを知りうる立場にある。そして証人柏原の証言(三回一二ないし一四丁、四回一ないし一〇丁、七回九ないし一一丁等)、各工事のファイルと各工事台帳等の証拠によれば、被告人小泉は、各工事の個別原価の付替の実態は知らなかったとしても柏原が継続的に工事原価を付け替えており、その結果多数の工番分につき、工事原価が対応せず、工事原価の価格や原価発生時期も正しく記帳されず、実際の装置等の製作工事、組立据付工事、指定場所への機材等の納入が、工事原価上相当遅れて発生するよう記帳されていたことは知っていたものと推認される。本件当時、原価付替を知らなかったごとき被告人小泉の公判供述(二六回五、六丁、一二、一三丁、二二、二三丁等)は措信できず、また、売上時期を変えるような原価の付替とは知らなかった旨の公判供述部分(三一回一ないし九丁)もたやすく措信できない。また、柏原のなした売上の公表帳簿未計上の措置については、被告人自身も自認しているとおり、中央工機分は自ら柏原に支持(二七回二丁)、第一実業分は事後に承認(二七回一〇、一一丁)、日産石油化学分は事後に承認(二七回七、八丁)してその経緯は十分承知している。そして、被告人小泉は、本件各年度の被告人会社の法人税確定申告に際し、公表帳簿の売上が正確なものではなく、売上繰延べ等による簿外の売上金や公表帳簿外の売上金を知りながら、被告人会社の代表者として確定申告をしたものと認められる。右諸事実によれば、同被告人には、ほ脱の故意があり、柏原との共謀の事実が認められる。なお、公表帳簿等に計上されない売上金の存在が国税局の反面調査等により容易に判明するものであったとしても、その売上金を公表帳簿に計上せず、確定申告に際しこれを加算していない以上、ほ脱の故意の成立を妨げることにはならない。また、被告人会社の労働組合員の組合活動に対処するため、売上金の存在等を組合員に秘匿するべく、公表帳簿に計上しなかったとしても、被告人小泉自身右売上金の存在を了知しながらこれを売上金に加算して申告手続をしない以上、ほ脱の故意に欠ける点はない。

四  ほ脱行為による貸方、借方の増減金額

1  売上高(五〇年五月期、五一年五月期)

被告人小泉らは、ほ脱の故意で売上計上時期を繰延べしたり売上除外をしたところ、売上計上すべきであった簿外売上額と、未だ検収前等の理由で売上計上できないものあるいは前期に売上計上すべきであった架空売上額は、次のとおり(別表(四)各期別売上表参照)である。

簿外売上額 架空売上額

五〇年五月期 四億五四〇五万一三五〇円 三八〇九万八三〇〇円

五一年五月期 一億六四八四万五四〇〇円 一億〇七三四万〇二五〇円

2  製品製作原価

(一) 減価償却費(五〇年五月期、五一年五月期)

被告人会社の青色申告の承認の取消し(検5)により、五〇年五月期の高速鋸盤一五万円、旋盤四三万六〇〇〇円の中小企業者等の機械の初年度特別償却費合計五八万六〇〇〇円(検3)を否認し、五一年五月期において、その普通償却限度額分高速鋸盤につき二万四三〇〇円及び旋盤につき七万〇六三二円の合計九万四九三二円は経費とする(別紙(1)、(2)製品製作原価報告書の減価償却費欄)。

(二) 製品製作原価(五〇年五月期、五一年五月期)

元帳(押34、35、36)によれば、被告人会社は、その経理方法として、受注した工事の製品製作原価のうち、工番別に把握できる材料費等の直接費を受注した契約の工番毎に仕掛品とし、右工番の工事を売上に計上する際、当該工番の製品製作原価を売上原価とし、期末において未完成のときは期末仕掛品とする、また、各工番毎に個別配賦の困難な給料工賃等の間接費はこれを一括し、期末仕掛工事原価(直接費)と、期首仕掛工事原価に期中発生の直接原価を加えた総直接原価との比により按分し、期末仕掛工事高相応分は期末仕掛工事原価に加算して仕掛工事高を算定するとともに、残余を当期の製品製作原価に算入する方法を継続的に採用しているものと認められる。

ところで、売上計上時期に異同が生じた場合、右工番の個別の製作原価が正しく記帳されていれば、公表の製品製作原価に、簿外売上となる工番工事の製品製作原価を加算し、架空売上となる工番工事のそれを減算すれば、当期の製品製作原価を算出することができる。しかし、柏原は、相当長期間にわたり、工事原価の付替をし、完成納入済みの製品をあたかも未完成であるがごとく仮装し、また、売上除外した工番の工事原価を他の工番に付け替えるなどした上、前記方法により経理をしており、一部工番の工事についは工事原価を他へ付け替えた状況を把握できる(柏原作成の五三年二月一三日付確認書(検10)、五三年五月二日付確認書(検12))ものの、本件争点となった相当数及び争点とならない工番の工事について、当該工番に相応する製品製作原価を確定し、これを基に各期の製品製作原価合計額を算出することは著しく困難である。弁護人は、六〇年一〇月二三日付上申書で本件争いとなった工番工事の製品製作原価の額を主張するが、右は柏原が原価を付け替えた工事台帳(押1)等に基づき主張するもので、付替前の実際の原価ではない。

したがって、他の合理的方法を用いるほかないところ、検察官は、期中に売上計上した工番の直接原価と間接総費用(但し、減価償却是否認額を修正)を認容し、各期末の公表仕掛工事高につき、簿外の仕掛工事高を加算し、架空の仕掛工事高を減算して修正した期首期末の仕掛工事高を求め、右資料を基に改めて右仕掛工事高に配賦する間接費の振替高を再計算し、被告人会社と同様の経理方法に従い、製品製作原価を算出する方法を用いている。

右の方法は、被告人会社の製品製作原価の経理方法に対応している上、それ自体合理的な方法であり、他の代替方法をとる必要性も認められないから、右算出方法を用いるのが相当である。

そこで、右方法に従い検討すると、別紙(3)の修正期首期末仕掛工事高表に記載のとおりである。

まず、被告人会社の公表期中製品製作原価と、被告人会社の公表の期首、期末の仕掛工事高は、確定申告書(検3、4)、五三年六月一五日付調査書(検8)、元帳(押35、36)により認められる。期中間接総費用の減価償却認否額は、前記(一)のとおりである。

被告人会社の簿外仕掛工事高は、別紙(4)の簿外仕掛工事高表のとおりである。同表の請求書期末仕掛工事分は、請求書(押8、9、10、11、押二19)と、これらにもとづき柏原が確認作成した同人の五三年五月一日付確認書(検11)の当該期末仕掛工事高を別表(四)の各期別売上表に応じて修正を施したものであり、その明細は、別紙(5)の請求書による簿外仕掛工事高内訳表に記載のとおりである。また、別紙(4)の柏原計算期末仕掛工事分は、右柏原の五三年五月一日付確認書(検11)により認められる。

被告人会社の架空仕掛工事高は、工事台帳(押1、3、4、5)、元帳(押35、36)のほか、大蔵事務官作成の五三年六月一五日付調査書(検8)の仕掛工事高(架空)に前記各期別売上表に応じて修正を施すことにより認定でき、その明細は別紙(6)の各期末架空仕掛工事高表に記載のとおりである。なお、七三七一番の工事につき、被告人会社は二口の工事を一体の工事と考え、それに対応する公表仕掛原価を五〇年五月二〇日と五一年五月二〇日に計上していたが、前二3(五)のとおり受注金額八一万三〇〇〇円の工事は四九年八月三一日に売上計上すべきであったから、これに対応する製作原価分は仕掛工事高ではなくなるところ、各工事に対応した製作原価を区分することはできないから、右工番に係る五〇年五月期の直接費原価を受注金額の割合で算定した金額(別紙(6)注参照)を架空仕掛工事原価とする。

そして、右に求めた数値を前提に、被告人会社の従前採用してきた期末仕掛工事高の間接費振替高の計算方法に従い修正間接費振替高を算出する(別紙(3)参照)。

以上によれば、各期の製品製作原価は、別紙(1)(2)の製品製作原価報告書中の当期製品製作原価のとおりである。

3  受取利息(五一年五月期)

寺田秀雄作成の確認書(検95)、木村茂作成の確認書(検96)により認められる。

4  価格変動準備金繰入額、戻入額(五〇年五月期、五一年五月期)青色申告の承認の取消しによるものである。

5  小結

以上によれば、五〇年五月期の所得は、別表(一)の修正損益計算書のとおりである。そして、右課税所得に対する未納事業税額(別紙(7)未納事業税額計算書参照)を減算した五一年五月期の所得は、別表(二)の修正損益計算書のとおりである。なお、右方法で算出すると、被告人会社の五一年五月期利益金の増減金額は三八五一万七八八八円あて増加することになるが、検察官は当期増減金額として二三七三万九三二五円を主張すると留まるから、その差額一四七七万八五六三円を訴因調整勘定に計上する。

(法令の適用)

被告人小泉恭男の判示各所為は、行為時においては、刑法六〇条、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、刑法六〇条、右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法廷の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人小泉恭男の判示各所為は、被告人日本空気力輸送装置株式会社の業務に関してなされたものであるから、同被告人会社については、改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当し、判示第一の罪について、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、同被告人会社を罰金二八〇〇万円に処する。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川賢二 裁判官 上原茂行 裁判官柴田秀樹は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 西川賢二)

別表(一) 修正損益計算書

自 昭和49年5月21日

至 昭和50年5月20日

〈省略〉

別表(二) 修正損益計算書

自 昭和50年5月21日

至 昭和51年5月20日

〈省略〉

別表(三) 税額計算書

〈省略〉

別表(四) 各期別売上表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(1) 製品製作原価報告書

自 昭和49年5月21日

至 昭和50年5月20日

〈省略〉

別紙(2) 製品製作原価報告書

自 昭和50年5月21日

至 昭和51年5月20日

〈省略〉

別紙(3) 修正期首期末仕掛工事高表

〈省略〉

注 〈2〉の内訳 製品製作原価報告書の期中製造原価中の購入費、粗材費、外注加工費、据付費、運賃荷造費、試運転調整費、打合旅費の合計額

〈3〉の内訳 上記報告書の期中製造原価中の〈2〉掲載のものを除いた項目の合計額

別紙(4) 簿外仕掛工事高表

〈省略〉

別紙(5) 請求書による簿外仕掛工事高内訳表

〈省略〉

別紙(6) 各期末架空仕掛工事高表

〈省略〉

別紙(7) 未納事業税額計算書

〈省略〉

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